昭和時代
藪の穂に村火事を見る渡舟かな
昭和二年一月
藪の池寒鮒釣のはやあらず
昭和二年一月二十日 発行所例会。三十一日、次男池内友次郎、横浜出帆の筥崎丸にて仏蘭西遊学の途に就く。
うち笑める老を助けて青き踏む
踏青や古き石階あるばかり
昭和二年二月二十八日 発行所例会。
木々の芽のわれに迫るや法の山
昭和二年三月
巣の中に蜂のかぶとの動く見ゆ
うなり落つ蜂や大地を怒り這ふ
昭和二年三月十七日 肋骨、為王、楽堂と雑談句作。発行所。
ものの芽のあらはれ出でし大事かな
昭和二年三月
斯く翳す春雨傘か昔人
春山の名もをかしさや鷹ヶ峰
一片の落花見送る静かな
原ささやく如く木の芽かな
昭和二年四月 京都滞在。光悦寺にて。
濃き日影ひいて遊べる蜥蜴かな
昭和二年五月十五日 みづほ帰朝歓迎句会。発行所。
百官の衣更へにし奈良の朝
昭和二年五月
セルを著て病ありとも見えぬかな
昭和二年五月
鵜飼見の船よそほひや夕かげり
昭和二年六月 大阪毎日、東京日日新聞社募集の日本八景の選抜委員を委嘱され、その候補地を視察する為岐阜に至り、長良川の鵜飼を見る。
くづをれて団扇づかひの老尼かな
昭和二年 老人会。
松風に騒ぎとぶなり水馬
昭和二年七月
なつかしきあやめの水の行方かな
よりそひて静なるかなかきつばた
昭和二年七月
大夕立来るらし由布のかきくもり
昭和二年七月 大毎、東日委嘱により別府に至る、日本八景の一に当選したる別府の記事を書く為。
わだつみに物の命のくらげかな
昭和二年八月四日 清三郎福岡転任送別東大俳句会。丸の内、竹葉亭。
俳諧の旅に日焼し汝かな
昭和二年八月八日 枴童上京の為、発行所小集。
此方へと法の御山のみちをしへ
昭和二年八月十一日 改造社主催講演会に出席のため高野山に赴く。
遅月の山を出でたる暗さかな
昭和二年八月十六日 夕。京都に至り、加茂堤に大文字を見る。
清閑にあれば月出づおのづから
昭和二年九月 退官せし前の横田大審院長招宴。
鎌倉秋天の下に浪あり墳墓あり
昭和二年九月十九日 子規忌句会。田端大龍寺。
仲秋や月明かに人老いし
昭和二年九月
はじまらん踊の場の人ゆきき
昭和二年十月
朝寒の老を追ひぬく朝な/\
昭和二年十月二十三日 発行所例会。泊雲来会。会者百名。
やり羽子や油のやうな京言葉
東山静に羽子の舞ひ落ちぬ
昭和二年十二月
柊をさす母によりそひにけり
昭和三年二月
草間に光りつづける春の水
昭和三年四月七日 婦人俳句会。
両の掌にすくひてこぼす蝌蚪の水
昭和三年四月 七宝会。植物園。
行人の落花の風を顧し
昭和三年四月十五日 発行所例会。
遅桜なほもたづねて奥の宮
おもひ川渡れば又も花の雨
昭和三年四月二十三日 泊雲、泊月、王城、比古、三千女と共に鞍馬貴船に遊ぶ。
川船のぎいとまがるやよし雀
昭和三年六月
姉妹や麦藁籠にゆすらうめ
昭和三年七月十四日 婦人俳句会。
新涼や仏にともし奉る
昭和三年九月十六日 子規忌句会。大龍寺。十八日、石井露月逝く。
ふるさとの月の港をよぎるのみ
はなやぎて月の面にかかる雲
われが来し南の国のザボンかな
昭和三年十月七日 福岡市公会堂に於ける、第二回関西俳句大会に出席。会衆四百。清三郎、禅寺洞、より江、久女、しづの女、泊月、王城、野風呂、橙黄子等。
熔岩の上を跣足の島男
昭和三年十月十日 薩摩に赴き、桜島に遊ぶ。
七盛の墓包み降る椎の露
昭和三年十月 赤間宮参拝。
手をかざし祇園詣や秋日和
昭和三年十月十六日 泊月と知恩院境内漫歩。吉田町楽友会館に於ける京大三高俳句会に臨む。
枝豆を喰へば雨月の情あり
昭和三年十月十九日 木槿会。大阪倶楽部。
旅笠に落ちつづきたる木の実かな
昭和三年十月二十日 泊月、王城と八幡の男山に遊びまた大阪に至る。住友倶楽部に於ける無名会に出席。
御室田に法師姿の案山子かな
昭和三年十月二十三日 洛西、岡康之の岳父石井氏邸にて。
ふみはづす蝗の顔の見ゆるかな
昭和三年十月
秋風に草の一葉のうちふるふ
流れ行く大根の葉の早さかな
昭和三年十一月十日 九品仏吟行。
寒き風人持ち来る煖炉かな
昭和三年十二月
ゆるやかに水鳥すすむ岸の松
昭和四年一月
此村を出でばやと思ふ畦を焼く
昭和四年二月
虻落ちてもがけば丁字香るなり
昭和四年三月十八日 発行所例会。
後手に人渉る春の水
昭和四年四月一日 立子同伴、京都にあり、泊月、王城、桐一、播水、桂樹楼、波川、ながしと共に光悦寺に遊ぶ。秋桜子も亦来る。
眼つむれば若き我あり春の宵
昭和四年四月
漕ぎ乱す大堰の水や花見船
昭和四年四月八日 渡月橋の上手より舟を傭ひて遡上。
旧城市柳絮とぶことしきりなり
昭和四年 五月十四日発、満州旅行の途につく。江川三昧東道。五月二十七日、遼陽に至る。
夕立や森を出て来る馬車一つ
昭和四年六月三日 一日ハルビンに至る。八日迄滞在。
止りたる蠅追ふことも只ねむし
昭和四年六月十一日 平壌、お牧の茶屋。
短夜や露領に近き旅の宿
昭和四年六月二十七日 老人会。肋骨、峰青嵐、楽天、落魄居、楽堂、為王等来会。
病身をもてあつかひつ門涼み
昭和四年七月十六日 安田句会。
石ころも露けきものの一つかな
昭和四年八月十九日 風生電気局長就任、京童帰朝、祝賀会。折柄ツエツペリン伯号来る。
藪の穂の動く秋風見てゐるか
昭和四年十月十日 七宝会。鎌倉浄明寺、たかし庵に於て。
子供等に双六まけて老の春
昭和五年一月五日 鎌倉俳句会。極楽寺、寿水庵。
ほつかりと梢に日あり霜の朝
昭和五年一月十九日 発行所例会。
栞して山家集あり西行忌
昭和五年三月十三日 七宝会。発行所。
春潮といへば必ず門司を思ふ
昭和五年三月
ふるひ居る小さき蜘蛛や立葵
昭和五年六月二十七日 鎌倉俳句会。鴻乙居。夜、正福寺谷戸蛍狩。
落書の顔の大きく梅雨の塀
昭和五年六月二十九日 玉藻句会。真下邸。
這入りたる虻にふくるる花擬宝珠
炎天の空美しや高野山
昭和五年七月十三日 旭川、鍋平朝臣等と高野山に遊ぶ。
闇なれば衣まとふ間の裸かな
昭和五年七月二十四日 東大俳句会。
蜘蛛打つて暫心静まらず
昭和五年八月一日 家庭俳句会。
もの言ひて露けき夜と覚えたり
昭和五年八月二十六日 鎌倉俳句会。たかし庵。
秋山やをはじき笹を分け
昭和五年九月三十日 第二回武蔵野探勝会。多摩の横山。
鉛筆で助炭に書きし覚え書
昭和五年十二月八日 笹鳴会。
東より春は来ると植ゑし梅
昭和六年一月十七日 椎花庵招宴。
菅の火は蘆の火よりもなほ弱し
昭和六年一月十八日 武蔵野探勝会。江戸川。
せはしげに叩く木魚や雪の寺
昭和六年二月十二日 七宝会。鎌倉、たかし庵。
大試験山の如くに控へたり
昭和六年二月十三日 東大俳句会。丸ビル集会室。
蕗の薹の舌を逃げゆくにがさかな
昭和六年二月二十日 家庭俳句会。発行所。
紅梅の紅の通へる幹ならん
昭和六年三月十二日 七宝会。葉山、水竹居別邸。
蜥蜴以下啓蟄の虫くさ/″\なり
昭和六年三月十三日 東大俳句会。
土佐日記懐にあり散る桜
昭和六年四月二日 土佐国高知に著船。国分村に紀貫之の邸址を訪ふ。
植木屋の掘りかけてある梅一樹
昭和六年四月十七日 家庭俳句会。矢口村、新田神社。
川波に山吹映り澄まんとす
昭和六年四月二十二日 丸之内会館。金春惣右衛門にはじめて句を教ふ。
早苗とる水うら/\と笠のうち
昭和六年五月十六日 丸之内倶楽部俳句会。第一回。
つくばひのよく濡れてをる端居かな
昭和六年六月十六日 水無月会大会。安田銀行。
草抜けばよるべなき蚊のさしにけり
昭和六年六月十八日 丸之内倶楽部俳句会。
飛騨の生れ名はとうといふほととぎす
昭和六年六月二十四日 上高地温泉ホテルにあり。少婢の名を聞けばとうといふ。
火の山の裾に夏帽振る別れ
昭和六年六月二十四日 下山。とう等焼岳の麓まで送り来る。
夕影は流るる藻にも濃かりけり
昭和六年七月十九日 武蔵野探勝会。古利根。
大蛾来て動乱したる灯虫かな
昭和六年八月十四日 東大俳句会。
蜘蛛の糸がんぴの花をしぼりたる
昭和六年九月六日 武蔵野探勝会。忍、川島奇北邸に赴き、大利根に遊ぶ。
われの星燃えてをるなり星月夜
昭和六年九月十七日 丸之内倶楽部俳句会。
秋風のだん/\荒し蘆の原
昭和六年九月十八日 家庭俳句会。羽田穴守海岸吟行。
仲秋や大陸に又遊ぶべく
昭和六年十月九日 東大俳句会。丸ビル集会室。
初潮に沈みて深き四ツ手かな
昭和六年十月二十二日 丸之内倶楽部俳句会。
秋風や生徒の中の島女
昭和六年十月二十三日 鎌倉俳句会。江の島金亀楼。
浦安の子は裸なり蘆の花
昭和六年十一月一日 武蔵野探勝会。浦安吟行。
たてかけてあたりものなき破魔矢かな
昭和六年十一月六日 『週刊朝日』新年号のために。
酒うすしせめては燗を熱うせよ
慟哭せしは昔となりむ明治節
昭和六年十一月十三日 東大俳句会。丸ビル集会室。
初鶏や動きそめたる山かづら
昭和六年十一月十四日 新聞聯合特信部の依頼。
たら/\と藤の落葉の続くなり
昭和六年十一月十五日 二子多摩川吟行。柳家休憩。
寺の傘茶店にありし時雨かな
昭和六年十一月十九日 丸之内倶楽部俳句会。
羽抜鳥身を細うしてかけりけり
昭和六年十二月二日
鷹の目の佇む人に向はざる
昭和六年十二月十一日 東大俳句会。丸ビル集会室。
炭斗は所定めず坐右にあり
昭和六年十二月十四日 笹鳴会。丸ビル集会室。
水仙や表紙とれたる古言海
昭和七年一月二十八日 丸之内倶楽部俳句会。
春の水流れ/\て又ここに
昭和七年二月七日 武蔵野探勝会。砧村大字岡本字下山、岩崎別邸。
草萌や大地総じてものものし
昭和七年二月八日 笹鳴会。丸ビル集会室。
風の日の麦踏遂にをらずなりぬ
昭和七年二月十三日 荻窪、女子大学句会。
学僧に梅の月あり猫の恋
昭和七年二月二十二日 薺会句会。
ぱつと火になりたる蜘蛛や草を焼く
我心漸く楽し草を焼く
昭和七年三月二十四日 丸之内倶楽部俳句会。
花の雨降りこめられて謡かな
昭和七年四月十二日 京都石田旅館にあり。安倍、和辻両君来り、謡二番。
山寺の古文書も無く長閑なり
昭和七年四月十六日 蜻蛉会。西山十輪寺吟行。
結縁は疑もなき花盛り
聾青畝ひとり離れて花下に笑む
昭和七年四月十九日 木槿会。大阪倶楽部。
燕のゆるく飛び居る何の意ぞ
昭和七年五月七日 水竹居祝賀会。四ツ木吉野園。
春の浜大いなる輪が画いてある
昭和七年五月九日 笹鳴会。片瀬西浜、保岡別邸。
夏草に黄色き魚を釣り上げし
昭和七年六月五日 武蔵野探勝会。石神井、三宝寺池。
自ら其頃となる釣荵
昭和七年六月二十一日 水無月会。丸ノ内、安田銀行。
榛名湖のふちのあやめに床几かな
昭和七年七月三十一日 伊香保に遊び、榛名湖にいたる。
落花のむ鯉はしやれもの髭長し
昭和七年九月四日 武蔵野探勝会。南拝島、日吉神社社前。
夜学すすむ教師の声の低きまま
昭和七年九月十日 『山茶花』十週年記念大会兼題。
くはれもす八雲旧居の秋の蚊に
昭和七年十月八日 出雲松江。八雲旧居を訪ふ。
秋風の急に寒しや分の茶屋
昭和七年十月九日 松江を発ち大山に向ふ。大山登山。
遅月の上りて暇申しけり
昭和七年十月十九日 嵯峨野吟行。二条、巨陶居。
山間の霧の小村に人と成る
顔よせて人話し居る夜霧かな
昭和七年十月二十日 木槿会。大阪倶楽部。
大小の木の実を人にたとへたり
昭和七年十一月十四日 笹鳴会。丸ビル集会室。
描初の壺に仲秋の句を題す
昭和八年一月一日 鎌倉宅病臥。皿井旭川来、枕頭に壺の図を描く。
つく羽子の静に高し誰やらん
昭和八年一月九日 笹鳴会。丸ビル集会室。
襟巻の狐の顔は別に在り
昭和八年一月十二日 七宝会。松韻社にて。日比谷公園。
つづけさまに嚔して威儀くづれけり
昭和八年一月二十一日 家庭俳句会。
凍蝶の己が魂追うて飛ぶ
昭和八年一月二十六日 丸之内倶楽部俳句会。
雪解くるささやき滋し小笹原
昭和八年一月二十七日 鎌倉俳句会。
紅梅の莟は固し言はず
昭和八年二月二十二日 臨時句会。発行所。
鴨の嘴よりたら/\と春の泥
昭和八年三月三日 家庭俳句会。横浜、三渓園。
立ちならぶ辛夷の莟行く如し
昭和八年三月三十日 七宝会。あふひ邸。
神にませばまこと美はし那智の滝
鬢に手を花に御詠歌あげて居り
昭和八年四月十日 南紀に遊ぶ。橙黄子東道。那智の滝。青岸渡寺。
鶯や御幸の輿もゆるめけん
昭和八年四月十二日 中辺路を経て田辺に至る。中辺路懐古。
子の日する昔の人のあらまほし
昭和八年四月十九日 大磯一本松、中村吉右衛門別邸に行く。安田靫彦の意匠になるといふ庭に昔絵を見るが如き稚松多し。
虹立ちて雨逃げて行く広野かな
昭和八年五月二十五日 丸之内倶楽部俳句会。
囀や絶えず二三羽こぼれ飛び
昭和八年六月十三日 北海道旭川俳句大会兼題。
浴衣著て少女の乳房高からず
昭和八年七月十二日 おほさき会。発行所。
風鈴の音に住ひをる女かな
昭和八年七月二十四日 玉藻句会。丸ビル集会室。
船涼し己が煙に包まれて
昭和八年 八月十六日発、北海道行。あふひ、立子、友次郎、草田男、夢香、桜坡子、木国同行。八月十七日、青函連絡船松前丸船中。
皆降りて北見富士見る旅の秋
昭和八年八月二十一日 るべしべ駅。此夜、阿寒湖、山浦旅館泊。
バス来るや虹の立ちたる湖畔村
火の山の麓の湖に舟遊
昭和八年八月二十二日 阿寒湖。此夜、弟子屈、青木旅館泊。
燈台は低く霧笛は峙てり
昭和八年八月二十三日 釧路港。此夜、釧路港、近江屋泊。
一筋の煙草のけむり夜学かな
昭和八年九月二十九日 草樹会。学士会館。
加藤洲の大百姓の夜長かな
昭和八年十月一日 武蔵野探勝会。常陸鹿島神社行。
倏忽に時は過ぎ行く秋の雨
昭和八年十月八日 田園調布、橙黄子新居句会。
秋の蝶黄色が白にさめけらし
昭和八年十月二十三日 玉藻句会。丸ビル集会室。
顔抱いて犬が寝てをり菊の宿
昭和八年十一月三日 家庭俳句会。鎌倉、虚子庵。
物指で脊かくことも日短
来るとはや帰り支度や日短
昭和八年十一月十九日 発行所例会。丸ビル集会室。
来る人に我は行く人慈善鍋
昭和八年十一月二十七日 丸之内倶楽部俳句会。
雑炊に非力ながらも笑ひけり
昭和八年十二月八日 草樹会。丸ビル集会室。
焼芋がこぼれて田舎源氏かな
昭和八年十二月十日 笹鳴会。丸ビル集会室。
白雲と冬木と終にかかはらず
昭和八年十二月十五日 家庭俳句会。渋谷、あふひ邸。
かくれ家をかいま見すれば雛飾る
昭和九年二月二十六日 玉藻句会。丸ビル集会室。
白雲のほとおこり消ゆ花の雨
昭和九年四月十三日 大阪に在りしが野風呂の招きにて昨夜遅く嵐山、花の家に著。大堰舟遊。此夜石田旅館泊。
四畳半三間の幽居や小米花
昭和九年四月十四日 蜻蛉会。岩倉実相寺に至る。岩倉公遺跡。
事務多忙頭を上げて春惜む
昭和九年四月二十九日 発行所例会。丸ビル集会室。
つくり雨降らせふきあげ噴き上げぬ
昭和九年六月九日 水竹居招宴。田中家。
酌婦来る灯取虫より汚きが
昭和九年六月十一日 おほさき会。丸ビル集会室。
一々の芥子に嚢や雲の峰
昭和九年六月十五日 家庭俳句会。小石川植物園。
玉虫の光残して飛びにけり
昭和九年七月二十三日 玉藻句会。丸ビル集会室。
水飯に味噌を落して濁しけり
昭和九年七月二十六日 丸之内倶楽部俳句会。
黒揚羽花魁草にかけり来る
昭和九年七月二十七日 鎌倉俳句会。稲村ヶ崎、稲村居。
何となく人に親しや初嵐
昭和九年八月二十三日 丸之内倶楽部俳句会。
よべの時化最も萩をいためしか
昭和九年九月十一日 箱根、見南山荘。
大いなるものが過ぎ行く野分かな
古の月あり舞の静なし
昭和九年九月二十一日 家庭俳句会。鎌倉、鶴ヶ岡八幡楼門。野分吹く。号外に颱風京阪地方を襲ひ大阪天王寺の塔倒ると。
並べある木の実に吾子の心思ふ
昭和九年十月二十二日 玉藻句会。丸ビル集会室。
秋風や何の煙か藪にしむ
昭和九年十月二十七日 鎌倉俳句会。たかし庵。
川を見るバナナの皮は手より落ち
昭和九年十一月四日 武蔵野探勝会。浜町、日本橋倶楽部。
焚火のみして朽ち果つる徒に非ず
昭和九年十一月十二日 おほさき会。丸ビル集会室。
神近き大提灯や初詣
昭和十年一月一日 未明。明治神宮初詣。
巫女舞をすかせ給ひて神の春
神慮今鳩をたたしむ初詣
昭和十年一月一日 午後。鶴ヶ岡八幡宮初詣。
藪入の田舎の月の明るさよ
昭和十年一月十日 第二回同人会。赤羽橋、春岱寮。
里方の葵の紋や雛の幕
昭和十年三月三日 武蔵野探勝会。麻布広尾、近藤男爵邸雛祭。
一を知つて二を知らぬなり卒業す
昭和十年三月十二日 笹鳴会。丸ビル集会室。
園丁の指に従ふ春の土
昭和十年四月四日 みづほ歓迎会。百花園。
椿先づ揺れて見せたる春の風
昭和十年四月二十日 あふひ還暦祝。百花園。
船の出るまで花隈の朧月
昭和十年四月二十四日 播水招宴。神戸花隈、吟松亭。
道のべに阿波の遍路の墓あはれ
昭和十年四月二十五日 風早西の下の句碑を見、鹿島に遊ぶ。松山、黙禅邸。松山ホトトギス会。
藤垂れて今宵の船も波なけん
昭和十年四月二十六日 石手寺、湧ヶ淵吟行。豊阪町亀の井。此夜神戸舟行。
旅荷物しまひ終りて花にひま
昭和十年四月二十九日 舞子、万亀楼。
秋篠はげんげの畦に仏かな
奈良茶飯出来るに間あり藤の花
昭和十年五月一日 立子と共に大阪玉藻句会出席。奈良東大寺裏、宝厳院。
燕のしば鳴き飛ぶや大堰川
昭和十年五月二日 京都嵐山、花の家。立子と共に。
緑蔭を出れば明るし芥子は実に
昭和十年六月十三日 七宝会。小石川植物園。
の音ゆるく太しや行々子
昭和十年六月二十四日 玉藻句会。丸ビル集会室。
吹きつけて痩せたる人や夏羽織
昭和十年六月二十八日 鎌倉俳句会。鎌倉山。
魚鼈居る水を踏まへて水馬
昭和十年七月十一日 七宝会。井ノ頭公園茶店。
山の蝶飛んで乾くや宿浴衣
昭和十年八月五日 箱根、松坂屋。一行十三人。
かわ/\と大きくゆるく寒鴉
昭和十年十二月十二日 七宝会。松本長氏追善。不忍池畔雨月荘。
大空に羽子の白妙とどまれり
昭和十年十二月十三日 草樹会。丸ビル集会室。
観音は近づきやすし除夜詣
昭和十年十二月三十一日 浅草観音。
●図書カード