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旅日記
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旅日記
種田山頭火
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Terjemahan Pagera AI
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Chapter 2 of 7

2

ぬかるみも春らしく堀りかへしてゐる

(宇治)

うらゝかな鐘をつかう

御堂のさびも春のさゞなみ

・春日へ扉ひらいて南無阿弥陀仏

・たゞずめば風わたる空の遠く遠く

(月ヶ瀬へ)

落葉ふる岩が腰かけとして

・どこで倒れてもよい山うぐひす

落葉してあらはなる巌がつちり

蕗のとうあしもとに一つ

後になり先になり梅にほふ

(伊勢神宮、五十鈴川)

そのながれにくちそゝぐ

たふとさはまつしろなる鶏の

若葉のにほひも水のよろしさもぬかづく

(二見ヶ浦)

春波のおしよせる砂にゑがく

旅人として小雪ちらつくを

(津にて)

・けふはこゝにきて枯葦いちめん

・麦の穂のおもひでがないでもない

こどもといつしよにひよろ/\つくし

春の夜の近眼と老眼とこんがらがつて

影は竹の葉の晴れてきさうな

春めく雲でうごかない

(辨天島)

すうつと松並木が、雨も春

とほく白波が見えて松のまがりやう

裸木に一句作らしたといふ猿がしよんぼり

ぬくい雨となる砂の足あと

どうやら晴れてる花ぐもりの水平線

・春の海のどこからともなく漕いでくる

これから旅も、さくら咲きだした

・茶どころの茶の木畑の春雨

三月廿六日 あたゝかく。

病室の二階一間を占領して終日、読む、書く、飲む。……

三月廿七日

九時の列車にて出立、さよなら、さよなら、ありがたう、ありがたう。

途中、四日市下車、折から開催中の博覧会見物、つまらなかつた。

都影君から貰つた正宗をラツパのみしたのはおもしろかつた。

夕方、津島君、おもひでの道をたどつて漁眠洞訪問、なつかしい家庭である、坊ちやんはよい児だ。

鉦たゝきが鉦をたゝいてゐる

などゝ俳句する、まだ小学二年なのに。

ひさしぶりの話がつきない夜の雨になり

三月廿八日 曇。

身辺整理。

坊ちやんお嬢さん同行で、木曽川あたりへ遊ぶ、お辨当に家人の心づくしがこめられてゐた、酒――それは私にだけの――には殊に。――

鈴鹿山がひかる、伊吹山も。

風が出た、風は何よりもいつも寂しい。

めづらしいよい遊びの一日ではあつた。

三月廿九日 晴。

朝酒はありがたすぎる。

私を旅に出て来て、もつたいないと思ふ。

私は私の友の友情に値しないことを私みづからよく知つてゐる。

津島地方の産物は毛織物と蕗、面白い取合である。

濃美平野はうらゝかだつた。

午后、漁君と同道して、蓴蓮亭を訪ふ、夜は句会。

例によつて飲みすぎる、しやべりすぎる。

三月三十日 晴。

きしめん――名古屋名物の一つといはれる揚豆腐をあしらつたうどん――を御馳走になる。

それから秋彦君と共に林五舎へ。

森有一君はほんたうに好きな友人だ。

ヱロ貝! その御馳走もよかつた。

秋彦君去り武朗君来る。

夜おそくまで話しつゞけた、そして睡つた、安らかに睡つた。

林五君よ、幸福でありたまへ。

三月三十一日 晴、春寒、薄氷が張つてゐた。

徳川園観賞。

二時の汽車で浜松へ。――

浜松は津とも違つて、おちついた都会である。

平野小児科医院、そこに多賀治君が待つてゐて下さつた。

二階の病院の一室を私の部屋として提供された、高等下宿にでもゐるやうで、身も心もくつろいだ。

四月一日 快晴。

御馳走々々々。

散歩、休養、通信。

私は自殺未遂者だ。

短かいやうな長いやうな一生。

多賀治さんとは初対面だけれど、親しい間柄である。

よい夫でありよい父であり、そしてよいドクトルである多賀治君を祝福する。

四月二日 曇。

春雨しと/\。

永井さん来訪、野蕗君徃訪。

多賀治君の住宅にも寄つて奥さんに挨拶する、新居普請中。

看護婦さんと相乗で辨天島へ一路ドライヴする、かへりみてブルジヨアすぎる。

松月旅館に送りこまれて、酒、酒、酒、いよ/\ブルジヨアすぎる。

暮れる前に、自働車で送られる、酔がかつと出て、私はたうとう行方不明になつてしまつた!

四月三日 風雨はげしかつた。

朝湯朝酒、昨夜の今朝で泣きたいやうな気持だ。

一時の列車で鎌倉へ。――

野蕗さんがひよつこり乗り込んで、送つて下さつた、涙ぐましい温情を感じた。

名古屋にも浜松にも同人間に何だか感情のもつれがあるらしい、私としては、そのどちらにも無関心だけれど。

天竜川を渡るとき、先年のおもひでにふけつた。

海は濁つて富士は見えない。

桃の花、菜の花、青麦、――日本は美しい!

丹那トンネル、暗い音がつゞく。

熱海は春たけなは、花見客が騒々しい、うるさいけれどおこられもしない。

――私は憂欝だ――人間が嫌になつたのでなくて、自分自身が嫌なのだ。

大船で乗り換へようとして下車すると、鎌倉同人が眼ざとく私を見つけて、にこ/\、自働車で鎌倉へ。

鳴雨居に落ちつく、くつろいで、酒、酒、話、話。

鳴雨君は想像した通り、奥さんと二人ぎりの、別荘風の小ぢんまりした家庭は春の海のやう。

雪男君、蜻郎君、冬青君、新五郎君、――鎌倉同人はほんたうになごやかだ。

波音があたゝかだつた。

ヒヤとおヒヤ――前者は冷酒、後者は水。

四月四日 晴。

かたじけなくも、もつたいなくも、朝湯にはいつてから朝酒をいたゞく。

蜻郎君来訪。

三人連れで散歩、光明寺大聖閣、’’’’幡宮、建長寺、円覚寺、長谷の大仏。……

冬青居徃訪。

夜は南浦園で句会、支那料理がおいしかつた。

まことによい日よい夜であつた。

層雲社から電報、明日の句会へ出席せよといふので。――

鎌倉風景。――

東京の印象。――

東京は広い。

伊豆遊吟。

沼津――東京。

朝の富士は白いあたまの春の雲

松の木あざやかに富士の全貌

ぶらんこぶら/\若葉照る

街の騒音何の木か咲いてゐる

東京をうたふ。

さくらちる富士がまつしろ

さくら咲いてまた逢うてゐる

旅ごゝろかなしい風がふきまくる

ぼう/\としてあるくいつしか春

(追加)

蘭竹かれ/″\の風にふかれつゝ

・鎌倉は松の木のよい月がのぼつた

大仏さん

異人さん

さくら

寺

いちはやく山ふところのさくら一もと

斎藤さんに

また逢ひませうと手を握る

東京をうたふ。

ほつと月がある東京に来てゐる

花ぐもりの富士が見えたりかくれたり

ビルからビルへ東京は私はうごく

ビルがビルに星も見えない空

ビルにて

窓へやつと芽ぶいてきた

四月五日 快晴、鎌倉から東京へ。

眼が覚めると海がころげてくるやうな波音である。

鳴雨居はしづかな夫婦ずまゐ、別荘風のしやれた家である。

朝湯朝酒、今日に限つたことではないけれど勿体ないなあと思ふ。

雪男さん来訪、散歩する、雪男居に寄る、御馳走になる。

昨夜の召電によつていつしよに上京する、大船で約束通り蜻郎君と落ち合ふ。

うらゝかな日である。

品川へ着いてまずそこの水を飲んだ、東京の水である、電車に乗つた、東京の空である、十三年ぶりに東京へ来たのだ。

大泉園を初めて訪ねる、鎌倉の椿が咲いてゐる、井師にお目にかゝる、北朗君も来てゐる。

句会、二十名ばかり集まつた、殆んどみな初対面の方々だ。

夜は層雲社に泊めて貰ふ、犬に吠えられた、歓迎してくれたのかも知れない。

武二君、五味君、北朗君と夜の更けるのも忘れて話しつゞけた。

四月六日 花ぐもり。

朝酒二三杯。

北朗君、武二君と同道して銀座へ、磊々子、一石路夢道を訪ねる。

酒、酒、酒、花、花、花、そして女、女、女。

北朗は古道具屋をまはつて、いろんなものを買ふ、私が酒を飲むやうなものだろう。

四月七日 花ぐもり。

浅草風景(新浅草観賞)。

定食八銭は安い、デンキブランはうまい、喜劇は面白い。

あてもなくぶら/\あるく。

四月八日 曇、いつしか雨となつた。

やたらに歩いた、――浅草から上野へ、それから九段へ、それから丸の内へ。

砂吐流君徃訪、これは丸ビル。

農平君徃訪、これは海上ビル。

鳳車君徃訪、これは東京ビル。

農平君と、それから魔神明君と日本橋の大 で会食。

東京駅で砂吐流君を待ち受け、新宿聚楽で夕食をする、味覚の殿堂といつてゐるだけ満員繁昌だ。

砂吐流の新居春風亭に泊る。

四月九日 小雨――曇。

朝からビールを飲む。

いつしよに出かける、君は丸ビルへ、私はかたこと庵へ。

武蔵野はなつかしい、うつくしい。

運よく斎藤さん在庵。

同道して徳富健次郎の墓に詣でる。

櫟林のところ/″\に辛夷の白い花ざかり。

青樫荘に前田夕暮氏を訪ふ。

さらに青木健作氏を訪ふ、三十余年ぶりの再会である、でも、昔なつかしい面影は失はれてゐなかつた。

やがて農平君も来訪、四人で歓談、夜の更けるのも忘れて。

斎藤さんは健作君の宅で、私は農平君の宅に泊めて貰ふ。

まことにまことに珍らしい会合であつた。

四月十日 曇。

春寒、ばら/\雨。

みんないつしよに出発、そしてそれ/″\の方向へ別れた。

東京ビルに茂森君徃訪、なつかしかつた、連れられて自働車で新宿へ出て、或るおでんやで飲む、そしてまた十二社へ、酒と女とがあつた。

私は自働車で浅草へ、そこで倒れてしまつた。

友、友、友、友、友。

四月十一日 曇。

農平君の案内で江戸川の花見に出かける、桜はまだ蕾だ、掛茶屋の赤前垂が黄色い声で客を呼んでゐるばかりだが、飲む酒はある。……

柴又にまわつて川甚でも飲む。

私はまた浅草へ。

四月十二日 曇。

おめでたいおのぼりさんとして。

山谷の安宿に泊る、泊るだけは二十五銭。

四月十三日 雨。

濡れて層雲社へ帰る、武二君が私の行方不明を心配してゐたさうで、私の癖とはいひながらすまなかつた。

夜は銀座へ、丸ビル人会出席。

かう酒ばかり飲んでゐては困る!

四月十四日 晴。

さくらが咲いた、散歩、赤坂見附はよい風景だつた。

武二君と共に迎へられて磊々子居へ。

磊々居滞在。

四月十五日 花ぐもり。

朝湯朝酒とは有難すぎる、身にあまる冥加である。

二人でぶら/\歩く、Iさんのお宅で御馳走になる、天ぷら蕎麦、冷酒、池上本門寺、よい森、松がよい。

高輪泉岳寺、香烟がたえない。

それから明治座へ、面白かつた、井上はやつぱりうまい。

銀座裏で飲んで食べる、おけさ飯とアブサン。

東京は広い、時代錯誤場所錯誤。

四月十六日 曇つたり晴れたり。

東京では遊びすぎた、やうやく東京を離れる、磊々子夫妻の温情は身にしみて有難かつた。

琅洞訪問、あやにく不在、その代りに多摩川観賞、二子橋畔春風習々春光熈々。

雷にどなられ霙にたゝかれた。

風がふいて蛙がないてゐる。

戸塚の松並木は美しかつた。

やつと藤沢で寝床を見つけた。

自分らしく、旅人らしく。

四月十七日 伊東温泉伊東屋。

晴、うらゝかだつた。

茅ヶ崎まで歩く、汽車で熱海まで、そこからまた歩く、行程七里、労れた。

富士はほんたうに尊い、私も富士見西行の姿になつた。

熱海はさすがに温泉郷らしい賑やかさだつた、伊東も観光祭。

今日の道は山も海も美しかつたけれど自働車がうるさかつた。

山の水をぞんぶんに飲んだ、をり/\すべつたりころんだりした。

旅のおもしろさ、旅のさびしさ。

・松並木がなくなると富士をまともに

・とほく富士をおいて桜まんかい

四月十八日 滞在、休養、整理。

伊豆はさすがに南国情調だ、麦が穂に出て燕が飛びかうてゐる。

○伊豆は生きるにも死ぬるにもよいところである。

○伊豆は至るところ花が咲いて湯が湧く、どこかに私にふさはしい寝床はないかな!

大地から湧きあがる湯は有難い。

同宿同行の話がなか/\興味深い、トギヤ老人、アメヤクヅレ、ルンペン、ヘンロ、ツジウラウリ。……

焼酎をひつかけてぐつすり眠つた。

・なみおとのさくらほろほろ

・春の夜の近眼と老眼とこんがらがつて

・伊豆はあたゝかく死ぬるによろしい波音

・湯の町通りぬける春風

Chapter 2 of 7
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