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大岡越前の独立
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大岡越前の独立
直木三十五
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Terang
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Sepia
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Terjemahan Pagera AI
Asli Public Domain
Chapter 6 of 11

六

「これは、御奉行様」

と、庄屋は、炉へ投出していた脚を、周章て引込めると、襟を合せて、坐り直した。下男は、牛小屋へ引込むし、子供は、母親に引張られて、吃驚しながら、納戸へ逃込んでしまった。庄屋は、不意の郡奉行の訪問に、心臓をしめつけられながら、炉べりで平伏した。

「少し、尋ねたい事がある」

「はい、はい」

と、両手を突いたまま平伏してしまっていた。

「上らしてもらうぞ」

「はっ」

と、いった庄屋は、洗足の水を取らせようと、家のものを見廻したが、誰もいないので

「これはこれは」

と、いって両手を突出している内に、郡奉行は上ってしまった。

「流石に寒いのう」

と炉へ手をかざしていると、一人の侍が入ってきた。奉行は振向くと

「さ、こちらへ、むさい所で――」

と、いった。庄屋は

「誰か、早くお茶をもって来んかい」

と、怒り声で叫んだ。

「宇兵衛、これだが――」

と、一人の侍のもってきた包をあけると郡奉行は、菅笠を取出した。

「はい、はい」

と、庄屋は、両手を突いた。二人の侍の背後を、庄屋の女房が、両手を膝まで下げながら、おずおずと通ると

「早うせんかい、馬鹿が」

と、庄屋が叱った。

「見覚えがあるか」

宇兵衛は、首を傾けて、両手を膝へ置いてじっと菅笠を見ていると

「それ、宝沢と、そこに書いてあるの」

「はい」

「宝沢とは、誰の事か存じておるか」

「宝沢?」

と、宇兵衛は、首を傾けた。

「宝沢?――はてな、宝沢さん」

「感応院の小僧の宝沢を存じておるか」

「あっ」

と、宇兵衛は、右手を宙に上げると、笑顔になって

「あの、天一坊様」

「うむ」

「そうそう、あの方は、幼な名が宝沢、これは、あの天一坊様の」

「所で、あれが、とんだ贋者での」

「ええっ」

「江戸表から、取調べの役人がまいられて、この証拠の菅笠を御見付けになったが、それ――この黒い所は血じゃ」

宇兵衛は、頷いて、口を開けたままであった。

「宝沢を殺しておいて、御墨附と、短刀とを奪取って、まんまと、贋者め、天一坊に成りすましておるのじゃ」

「はあ――」

と、宇兵衛は、血の跡だという黒い斑点と破れた所とを眺めていた。

「そこで、これは、宝沢の書いた字にちがいないと思うが、どうじゃ」

「はいはい、左様で御座いましょう」

と、宇兵衛が、首を曲げて覗いていると、一人の侍が

「偽りならば、偽りと申せ」

と鋭くいった。

「いいえ、正しく、宝沢さんの手で御座います、はい」

「偽りであるまいの」

「いいえ、貴下様――」

と、宇兵衛は、眉を歪めた。

「村方の者共、天一坊のことを、いろいろと取沙汰致しておるが、並の噂とは、ことかわり、迂闊に、宝沢が天一坊などと申すと、咎めに遭うぞ」

宇兵衛は、膝の上へ頭をすりつけるように叩頭した。

Chapter 6 of 11
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