掃除のしかた
掃除のもとになるのは、物の置き場所だということを、まず何よりも心に入れることが大切だと思います。物の置き場所がわからなければ、掃除はてんでできるものではありません。物の置き場所は、家々で必ずきまっています。気をつけてまちがいのないようにしなければなりません。
台所のこまこましたもので、主婦のほうからどこという置きどころを指図されてないものがあるならば、自分でここという置きどころをさだめておくように、また物によっては、この置き場所をどこにしましょうと、主婦の指図を受けるようにして、どんなものでも置きどころの分からないままで、うっかりしているようなことがあってはなりません。一軒の家の中に、一つでも置きどころのきまらないものがあったり、またきまっていても、知らずにいるものがあったり、知っていてもうっかりして、その置き場所を十分にまもらない雇人があったりすると、家の中はみだれて気持ちわるく、年中さがし物をしなければならないのだから、みなの骨折りが一そう多くなります。掃除のもとは物の置き場所をただすことだということを、かならず覚えるようにしてくださいませ。
すべて掃除のために室内をかたづけるときには、その部屋のものでないものから持ち出して、かならずそれぞれの置き場所におさめること(茶器など洗ってからでなければしまわれないものは、洗いものを置くところに持っていく)。その部屋に置くべきものでないものが、一つも残らず部屋の外にはこび出され、それぞれの場所におさめられたところで、ごみを掃き出すほうの障子を明けはらい、その部屋に備えつけてあるもの、たとえば火鉢とか、ざぶとんとか机とかいうものに、はたきをかけて次の間にはこび出し、次の間とのあいだを閉め切って、障子にはたきをかけ、つぎに室内を丁寧に掃き出して、次の間にはこび出してあるものを、あらためて十分に整理して(机火鉢をよくふくことなど)運びいれ、それぞれの位置にただしくすえること。これが室内掃除の大体の順序です。はじめのかたづけ方について、いま少しくわしくいっておきましょう。
最初その部屋のものでないものをはこびだすときに、もしもその中に食べ物など(菓子の盛ってある菓子器など)があったなら、一番さきにかたづけなければなりません。なぜというのに食べ物などをそこにおいたまま、かたづけものをするためにあちこちすると、その上にほこりがおくからです。食べ物でなくっても、きれ類とか塗り物とか、すべてほこりがおいては一そう困るようなものは先にかたづけること。
また大概の女中たちのかたづけものをするのをみていると、とかく大きいものを気にして、さきにはこびたがるようですけれど、細かいものがあたりにたくさん散らばっている中から、大きいものをぽつんと引きぬいても、そのあとがちっともかたづいたようにないばかりか、かえって一そう乱雑にみえて、かたづけものが余計面倒な気にもなるし、また小さいもののそこここにある中を、大きなものをかかえてあちこちすることは、もの壊しのもとにもなります。小さいものから手ばしこくかたづけてかかると、大きいものはまだ残っていても、部屋の中がそのかたづけただけずつ整ってみえ、かたづける自分のはげみにもなり、はたからみてもたいそう器用に取りまわしているというように思われるものです。
以上の筋道を応用して考えると、台所も十分にきれいにしておくことができます。
終わりにあらためていっておくのは、一つの部屋を掃除するのには、その部屋の中に置くべきものでないものを、一つでもその部屋に残してはならない。またおなじ部屋の中でも、こちらのすみに置くべきものを、向こうのすみに置くというふうなことは、たとえどんなに小さいものでも、決していけないということです。
箪笥の上に、子供が雑誌をのせておく(のせておくほうの子供はもちろんわるいから、それはまたそれで教えるけれど)その部屋を掃除した女中が、そのままにしておく。次にまた出入りの商人が、手拭を持ってお中元にくる。誰かがそれをまた箪笥の上にのせる。すでに二つ三つのものがのっていると、ほかの女中も子供もちょうどそこを物あげ場かなんぞのようにして、あれものせこれものせる。いつの間にか山のようになって、何をさがすのにも、あすこにはいろいろなものが載っているからというので、ないものまでも必ず一応そこをさがすというようなことになります。最初の雑誌一冊がいつもこうした不整理のもとになるのですから、めいめいに気をつける上に、朝夕の掃除の任にあたるものは、また一そうに気をつけて、一物も残さずそれぞれの場所にかたづけるようにしなければなりません。留守中のとどけものなど、置き場所のわからないものは、主婦にたずねること。もしも留守であったら、かねてきめてある当座棚の上にのせておいて、のちに忘れずに指図をうけるようにすること。引き出しの中にものをしまうにしても、いつでも右の端にあるものを、左の端に置くようなことをすると、出すときにかならずちょっとまごつきます。物をそれぞれのおき場所に十分たしかにしまうことができないなら、それは掃除のできない女ということになります。
つぎには掃除の仕方ですが、はたきをかけるのに、大概まっすぐに障子にむかって、大そうな勢いで紙ばかりたたくように見えますが、あれではいけません。ななめに立って障子の桟を目がけて、順々にさらさらと十分ほこりの落ちるまではたくうちに、紙も自然よきほどにはらわれるものです。ほんとうに丁寧にはたくのには、はじめに向こう向きにななめになって四枚なら四枚ある障子をすっかりはたいたら、こんどは別のほうに向きになおり、最後にはたいた障子から順々に向こうにはたいていくので、こうすると障子の桟の四方が一つ一つすべてきれいにはたかれるのです。しかしそのひまのない場合には、朝はこちらから夕の掃除には向こうからというようにしてもよいわけです。
それからほうきをとって掃くときに、押入れの唐紙(ふすま)でも、次の間とのあいだの唐紙でも、また縁側の障子でも、すべて一枚一枚あけて掃くこと。敷居にごみのあるのは大そうみにくいものです。ことに押入れは唐紙をあけたら、敷居ばかりでなく、ちょっと置いてあるものくらいはのけるほどにして、できるだけ押入れの中までも掃くようにすること。ほうきの先でぱっぱとごみをたてる流の掃き方はいけません。敷居にごみの残っている掃き方を、あるお家ではめくらの掃除と名をつけているということです。よい目を持っていながらめくらの掃除をしないようにしてくださいませ。