Kembali
カラブウ内親王殿下
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カラブウ内親王殿下
牧逸馬
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Tema
Terang
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Sepia
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Terjemahan Pagera AI
Asli Public Domain
Chapter 3 of 9

3

そう判ると、田舎の人は気立てが好い。家じゅう親切の競争みたいになってさあさあと手を取らんばかりに食堂へ案内する。丁度晩飯が出ているところだから、早速食卓へ椅子を引いて、腸詰、野菜、麺※、この辺、農家で自醸する名物の林檎酒を大コップに、ありったけの御馳走をならべる。口ぐちに奨める。根が単純な人たちだ。そこへ、天から降ったような、文字どおりのこの遠客だ。大層な歓待振りである。

ところが、女は、その折角の食べものには手をつけずに、ただ黙ってにこにこ笑って、のべつにお低頭しているだけだ。一同の機嫌を損ねまいとして、一生懸命のように見える。ホルトン家の人々は一そう気の毒に感じ出して、何うしたらこの頼りなさそうな異国の女旅人を慰めることが出来るかと、家を挙げての騒ぎである。そのうちに女は、ホルトンのおかみさんに、手真似で、食べ物が違うから自分で料理したいのだが許して貰えまいか――そういう意味を伝えた。承知すると、早速台所へ起って行って、一種独特のやり方で米を煮る。それに牛乳をかけて食べるのだ。それだけの食事である。済むと、流しへ行って、儀式のように厳粛に、水差しの水を交るがわる両手に掛ける。娘のひとりがタオルを持って行ってやったが、拭こうとはしないで、手を空に振廻して水を切り、そのまま乾かすのだ。成程、よほど変っている――一同珍らしくてたまらないから、ぞろぞろついて廻ってしきりに感心していると、女は矢庭に床に跪座づいて額手礼という、額部に手を当てて上半身を屈めながら例の音楽的な声で、矢張り「がぎぐげご」と聞えるようなことを言いはじめた。祈祷らしいのである。何時までもつづけている。身体を低く曲げて、額が床につきそうだ。ようやく祈が終って、寝る段になる。ここでまたホルトンの人達が呆気に取られたというのは、どうせ百姓家のことだから余分の寝台などありはしない。姉娘と一つベッドに寝るようにと、叮嚀に、と言っても手真似でだが、その意味を現すと、女は、より叮嚀に辞退して、上に着ている寝巻のような長い着物を脱いで食堂の床に拡げた。そして、その端を円めて枕にする。ごろ寝だ。そのまま安らかな寝息を聞かせて眠ってしまう。

翌朝である。

四月三日、アルモンズベリイにこの地方で大きな馬市が立つ。郡検事サミュエル・ウオロウル氏―― Mr. Samuel Worrall ――は大地主で、謂わば郷士、グロセスタシャア州の名家だ。邸宅をノウル園―― Knole Park ――といって俗にアルモンズベリイの古城、堂々たるものである、そのノウル園のヴェランダに出て、これから馬市に出掛けようとサミュエル・ウオロウル氏が馬車の仕度を命じているところへ、アルモンズベリイ市の貧民救済委員の一人が農夫のドルフ・ホルトンを伴って急な面会を求めて来た。

ホルトンはウオロウル氏の小作人の一人だ。何か重大な用件らしいので、取りあえずその場に通してみると、ホルトンを随えてあわただしく這入って来た委員が、いきなり、

「昨夜町へ妙な人間が飛び込んで来ました」と言う。「印度かどこか、とにかく東洋の女らしいんですが、いうことがさっぱり判らないので、みんな当惑しております」ちょっとホルトンを返り見て、「突然この者の家へふらっと舞いこんで来ましたそうで、ゆうべ一晩泊って、今朝になっても出て行く様子もなく、すっかり腰を据えられて手古摺っておりますんで」

ホルトンが引き取った。

「髪も眼も黒く、皮膚は浅黒くて、歯が真っ白でございます。仲なか美人でございます。どうもすこしも言葉が通じませんので、私はじめ一同持て余しております。一応お耳に入れて置いたほうが宜いと存じまして、それに、これは私の思いつきで御座いますが、旦那様のところに、希臘人の下男がいましたですね」「そうだ」ウオロウル氏は横手を拍って、「うちにいる希臘人の男、あれは五、六個国語を話します、あれに通訳させましょう」「どうぞそういうことに」ホルトンは大よろこびだ。「そして、旦那様御自身おしらべ願いたいもので」

なお附け加えて、早いものでホルトンの家に変な女が来ているとの評判が立って、もう朝から好奇な見物人がわいわい詰めかけて窺きに来る仕末だという。

そこへウオロウル夫人も出て来て、そういう珍らしい人種なら是非呼んで見たいものだと言葉を添える。事実、この時からウオロウル夫人は、この、降臨したる漂泊の東洋美人に絶大な興味を示して、終始かの女のための最もよき保護者となったのだ。

Chapter 3 of 9
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