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「うふふん。――」
と咳払いをなされた木戸博士は、ご自分の計算机からお立ちになり、ズカズカと助手の丘数夫の席までお出でになった。
「こういう事になったよ。――」
と仰有ると、丘助手の前へ、三枚の曲線図をバサリと投げだされた。
「……」
丘助手は、突然の博士のお出でに、思わず襟を正して立上った――というより、飛上ったという方が当っているかも知れない。何しろ丘数夫は、この研究所では極く新参者なのであるから。
「この第一図、第二図、第三図の三つを見給え。すべては明瞭すぎるほど明瞭じゃ」
博士は Fig. 1 Fig. 2 Fig. 3 と、英語で図番号をうってある三つの曲線図を、一列にキチンと並べられた。
「はア――」
丘助手は頓に返辞もなりかねて、図面の上に視線のいなずまを降らせた。
(測定者・木戸とあるからには、これは先生の測定されたものに違いない。なんだか山の形をした曲線が出ているが、第一図のと第二図のとは富士山のような形だ。第三図のだけは、二見浦の夫婦岩を大きくしたように、二つの瘤がある。これは一体なんのことだ)
と丘助手は三つの図案を見較べ、ちょっと小首を傾けた。
「実に明瞭じゃろうが……」
と木戸博士は、お独りで感に堪えながって居られた。
「はア、はア――」
(で、これは早く三曲線の意味を呑みこまないと、先生に対して申訳ない――申訳ないらしい)と丘助手は一生懸命に理解しようと、三曲線をその網膜に送りこんでいる。(容疑者の烏山と磯谷と犬塚――すると、これは三人の容疑者に関するものらしい。三人の容疑者と……ハテナ……)
「ウン」と思わず口走って、
(そうだ。あの事件の容疑者のことかも知れないぞ)と彼は、ようやくのことで思いだした。
あの事件――とは?
それについて筆者は、次に短い紹介をして置きたいと思う。