Chapter 1 of 3

昔のことでありました。ある小さな国の女皇に二人のお子さまがありました。姉も妹もともに美しいうえに、りこうでありました。女皇は、もう年をとっていられましたから、お位を姉のほうのお子さまに譲ろうと思っていられました。

そのうち、姉のほうが、目をわずらわれて、すがめになられました。いままで、花のように美しかった顔が急に醜くなってしまいました。すると、女皇は、いままでのように、姉のほうはかわいがられずに、妹のほうをかわいがられるようになりました。

姉は、それをたいへん悲しみました。なにも自分の知ったとがではない。病気でこんなに醜くなったものを、なんでお母さまはきらわれるのだろうかとなげきました。

しかし、妹の情けは、前とすこしも変わりません。姉さんをうやまい、なつかしみました。しかるに、不幸の姉は、ある日こと、また、高い階段から落ちて、産まれもつかぬちんばになってしまった。

すがめでさえ醜いといってきらわれた、母の女皇は、そのうえちんばになっていっそう醜くなった姉のほうを、ますますうとんぜられたのであります。そればかりでなく、妹までが、姉をきらうようになったのであります。

これと反対に、妹の姫はますます美しくなりました。花よりも、星よりも、この世界に見られる、いかなる美しいものよりも、もっと美しく見られたのであります。貴い宝玉も、その美しさにくらべることができなかったのであります。

女皇の心は、いつしか、王位を妹に譲ろうときめていました。けれども、この街の民はどう思うかと気づかわれました。あたりまえならば姉が王位をつぐのが順序でありますから、街の人民は、なんといって、反対すまいものでもなかったのであります。

そこで、女皇は、街の人々にこれを聞くことにいたしました。すると、街の人々は、

「それは、われわれどもが王さまをいただくなら、美しい妹姫のような女皇が望ましいものでございます。醜いお方は、なんとなく気持ちが悪うございますから、どうか妹の姫をいただきたいものでございます。」と、訴えました。

これをお聞きになると、女皇はだれの心も同じものだと思われて、いまはなんの躊躇もなく、位を妹に譲ることになさいました。

独り、姉のほうは、さびしく、悲しくへやのうちに日を送られました。だれに向かって、訴えてみようもありません。さらばといって、このままこの城に長くいることもできないのでありましょう。いずれは、どこか遠いところに移されてしまうであろうと思うと、気がおちつくこともできません。いっそ、自分からこの城を去ってしまいたいなどと思って、毎日、窓ぎわに立って遠く、あてなくながめていられました。

この街には、昔から、高い、不思議な塔が立っていました。だれがこの塔を建てたものかわかりません。また、なんのために造ったものかわかりません。人々は気味悪がって、かつてひとりとして、この塔の上に登ったものはなかったのであります。

このきみ悪い、白い塔が、ちょうどこの姉の姫の立っていられる窓から、かなたに見えたのであります。

夕暮れ方の光を受けて、その塔は、謎のように、白壁や、煙突や、その他工場の建物や、雑然とした屋根などが見える、街の中にそびえて、そこらを見下ろしていました。

いましも、ふと姉の目が、この不思議な高い塔の頂に止まりますと、思いなしか、その塔が手招ぎするような気がしたのであります。

「これは、わたしの目のせいであろう。」と思って、姉の姫は、いってみるなどという妄想は断たれました。そのうちに、日は沈んで、静かな夜は街の上にかかると、したがって塔の影も見えなくなってしまいました。

Chapter 1 of 3