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愛ちやんの夢物語
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愛ちやんの夢物語
ルイス・キャロル
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翻訳 Pagera AI
原文 Public Domain
Chapter 4 of 13

第三章  候補競爭と長話

岸の上に集まつた一隊は、それこそ滑稽で觀物でした――鳥の諸羽は泥塗れに、動物は毛皮と毛皮と膠着かんばかりに全濡になり、雫がたら/\落ちるので體を横に捩つて、氣持惡さうにしてゐました。

最初の問題は、云ふまでもなく何うして再びそれを乾燥さうかと云ふことで、その爲め皆なで相談會を開きました、暫くして愛ちやんは、宛で前から皆なを知つてでも居たやうに、臆面もなく親しげに話し出しました。

乃で愛ちやんは隨分長い間ローリー鳥と議論をしました、ローリー鳥は終には澁ッ面して拗ねて背中を向けて、『私はお前より年上だよ、私の方が能く知つてるサ』と只斯う云つたばかりなので、此愛ちやんはローリー鳥が果して幾つ年とつて居るか、それを聞かない中は承知しませんでした、がローリー鳥が何うしても其年齡を云ふのを拒んだものですから、終には仕方なく默つて了ひました。

到頭、其中でも權勢家の一人らしく見えた鼠が、『坐り給へ諸君、まァ聞き給へ、僕が直きにそれの乾くやうにして見せる!』と呶鳴りました。多勢のものは殘らず言下に、鼠を中心にして大きな輪を作つて坐りました。愛ちやんは怪訝な顏しながら眼を離さず見て居ました、でも早速乾燥さなければ屹度惡い風邪を引くと思ひましたから。

『エヘン!』と一つ咳拂ひして、鼠は尊大に構へて、『諸君宜しいか?最も乾燥無味なものは是です、まァ默つて聞き給へ、諸君!「ウィリアム第一世、其人の立法は羅馬法皇の御心にひ、忽ちにして首領の必要ありし英人の從ふ所となり、近くは纂奪及び征服を恣にするに至りました。エドウィン、モルカー、マーシア及びノーザンブリア伯、皆然りです――」』

『ウム!』と云つてローリー鳥は慄へ上りました。

『何です!』と鼠は顏をしかめたが、頗る丁寧に、『何か仰しやいましたか?』

『私ではない!』とローリー鳥が急いで云ひました。

『貴方に違ひありません』と鼠が云ひました。『――さて、「エドウィンとモルカー、マーシア及びノーザンブリア伯が彼れに盟ひました。するとカンタベリーの忠節なる大僧正スチガンド氏すら、それを當然の事だと思ひました――」』

『それを?』と家鴨が云ひました。

『それをさ』と鼠は些や意地惡く答へて、『無論君も「それ」の譯を知つてるだらう』

『それは能く解つてる、大方蛙か蟲ぐらゐのものだらう』と云つて家鴨は『しかし、僕の訊くのは大僧正が何うしたと云ふのだ?』

鼠は此質問を聞き流して速かに云ひ續けました、『――エドガーアセリングと共に、行きてウィリアムに面謁し、王冠を捧げたのは當然のことです。ウィリアムの行動は最初禮に適ふたものでした。併しながら彼のノルマンの倨傲――何うかしましたか?』と云つて愛ちやんの方を振向きました。

『矢張濡れてるは、些とも乾かなくッてよ』と愛ちやんが悲しさうに云ひました。

『然らば』とドード鳥が嚴格に云つて立上り、『此會議の延期されんことを動議します。蓋し、もつと早い有効な治療方法が――』

『英語で云ひ給へ!』と云つて小鷲は、『そんな長ッたらしい事は半分も解らない、幾ら云つたつて駄目だ、何れも信ずるに足らん!』云つて微笑を秘すために頭を下げました。他の數多の鳥の中には故意と聞えよがしに窃笑をしたのもありました。

『余輩の云はんと欲する所のものは』と憤激してドード鳥が云ひました、『吾々を乾かせる唯一の方法は候補競爭(西洋鬼ごつこ)である』

『候補競爭とは?』と愛ちやんが云ひました。愛ちやんは別段其れを知りたくはなかつてのですが、ドード鳥が恰かも誰かゞ何か話すだらうと思つて言ひ澱みましたが、他に誰も何とも言はうとするものがなかつたので。

『さて』ドード鳥が云ふには、『それを説明する唯一の方法はそれを行ふことである』(若し皆さんが冬の或る日、自ら其れを試みんと欲するならば、ドード鳥がそれを如何にして行つたかを話しませう)

最初ドード鳥は、一の輪を描いて競爭進路を定めました、(「輪の形は些や正確でなくても關はない」とドード鳥が云ひました)それから其處に居た一隊のものが皆な、其進路に沿うて其方此方に排置されました。『一、二、三、進め』の號令もなく、各自に皆勝手に走り出して勝手に止まりましたから、容易に競爭の終りを知ることが出來ませんでした。けれども各自に一時間半か其所いら走り續けた時に、全く乾いて了ひました、ドード鳥は急に、『止めッ!』と叫びました。乃で皆な息喘きながら其周圍へ集つて來て、『だが、誰が勝つたの?』と各自に訊きました。

此質問には、ドード鳥が大思想家でないため答へることが出來ず、一本の指で其額を抑え、長い間立つて居ました(よく繪にある沙翁のやうな姿勢をして)其間他のものも皆默つて待つてゐました。終にドード鳥が口を開いて、『各自に皆な勝つた、皆な褒美が貰へる』

『しかし誰が褒美を呉れるんですか?』と異口同音に尋ねました。

『左樣、無論、彼娘が』と愛ちやんを指しながらドード鳥が云つたので、其一隊が殘らず一時に愛ちやんの周りを取圍みました。『褒美!褒美!』とガヤ/\叫びながら。

愛ちやんは當惑して、知らず/\衣嚢に片手を入れ、乾菓子の箱を取出し、(幸ひ鹹水は其中に浸込んで居ませんでした)褒美として周圍のものに殘らず其れを渡してやりました。丁度一個と一片宛。

『しかし彼娘は自分から自分に褒美を貰はなければならない』と鼠が云ひました。

『無論』とドード鳥が莫迦に眞面目になつて答へました。

『お前は未だ他に何か衣嚢に持つてるの?』と云ひ足して、愛ちやんの方を振向きました。

『只た指環を一箇』と愛ちやんが悲しさうに云ひました。

『皆な渡してお仕舞ひ』とドード鳥が云ひました。

それから再び皆なが集つた時に、ドード鳥は嚴かに指環を示して、『吾輩は此優美なる指環を諸君の受納せられんことを望む』此短い演説が濟むと一同拍手喝采しました。

愛ちやんは何から何まで可笑くて堪りませんでした、が皆な揃ひも揃つて眞面目くさつてるので、眞逆自分獨り笑ふ譯にも行きませんでした。何と云つて可いか解らぬので、愛ちやんは只一禮し、成るべく嚴格な容貌をして指環を取出しました。

それから乾菓子を食べました。大きな鳥は其味が解らないと云つて訴す、小さな鳥は哽せて背中を叩いて貰う、それは/\大騷ぎでした。それが濟むと、皆な復た輪になつて坐り、もツと何か話してくれと鼠に迫りました。

『お前身の上話をする約束ではなくッて』と云つて愛ちやんは、『何故嫌ひなのサ――ネとイが』と後からくやうに云ひました、又鼠が怒りはしないかと氣遣はしげに。

『私のは長くて其上可哀相なの』と云つて、鼠は愛ちやんの方へ振向きながら長太息を吐きました。

『長いの、さう』と云つて愛ちやんは、鼠の尾を不思議さうに眺めて、『でも、何故可哀相なの?』愛ちやんの鼠が話をしてる間始終謎でも聞いてるやうな氣がしました、それで愛ちやんの考へでは、其話といふのは何か斯風なものだらうと思ひました。――

『福公が

家で鼠に

逢つて

云ふに

は、「一

緒に芝ッ

原へ來

い、罰

してや

るから――

サア、も

う何と

云つて

も駄目

だ。何

うして

も訊問

の必要

がある、

今朝か

ら眞箇

に何に

も爲な

いのだ

もの」

すると、

鼠が小人

に云ふに

は「こん

な訊問が

何にな

るか、檢

事もな

ければ

判事も

ない、徒

らに吾々

の息を

費すば

かりだ」

「僕が判

事にな

つてや

らう、檢

事にもな

つてやら

う」と云

つて狡猾

な福公は、

「吾輩が總

ての訴訟

を判く、

可いか、

汝に死

刑の宣

告をす

る」』

『お前の知つた事ではない』と鼠は眞面目になつて愛ちやんに云つて、『何を考へてるのか?』

『え、何ですか』と愛ちやんは丁寧に答へて、『貴方はこれで五度お辭儀をしましたね?』

『しない!』と鼠は怒つて叫びました。

『皆さん!』と云つて愛ちやんは、尚ほ續けやうとして氣遣はしげに身の周りを見廻し、『さア、これで解散しやうぢやありませんか!』

『そんな事をする必要はない』と云ひさま、鼠は起ち上つて歩き出しました。

『莫迦なことを云ふ、それは私を侮辱すると云ふものだ!』

『そんな譯ぢやなくッてよ』と優しくも愛ちやんが辯疏しました。『眞箇に腹立ッぽいのね、もう怒つてゝ!』

鼠は只齒軋りしたばかり。

『お出でよ、話してお了ひな!』と愛ちやんが背後から呼びかけました。他の者も皆聲を合せて、『さうだとも/\!』併し鼠は只口惜しさうに頭を振つて、さッさと歩いて行つて了ひました。

『まァ、行つて了つた、可哀相に!』鼠の姿が全く見えなくなるや否や、ローリー鳥は斯う云つて長太息を吐きました。乃で初めて機會を得て、一疋の年老つた蟹が自分の娘に云ひ聞かせるには、『あァ、お前ね!よく憶えてお居で、これは、お前の惡性は何うしても直すことが出來ないと云ふ好い一つの教訓だから!』『何ですッて阿母さん!』と其若い蟹が怒つて咬みつくやうに云ひました。『年甲斐もない、お愼みなさい!』

『あァ、此處に玉ちやんが居れば可いにねえ!』と別段誰に云ふともなく愛ちやんが聲高に云ひました。

『玉ちやんて誰のこと、え、誰?』とローリー鳥が云ひました。

愛ちやんは素より、其可愛い猫のことを話さう話さうと思つてた所だッたので、※心に答へて云ふには、『玉ちやんは私の猫よ。鼠捕りの名人だわ!あァ然うだ、鳥を追ッ驅ける所を見せてあげたいのね!それこそ玉ちやんは其れを見るが早いか、直ぐに小鳥などは捕つて食べて了つてよ!』

此話は一同に著しき感動を與へました。中には遁出した鳥さへあり、年老つた一羽の鵲は用心深くも身仕舞して、『家へ歸らう、夜露は咽喉に毒だ!』と云ひ出しました。又金絲雀は顫へ聲で、『お歸りよ、皆な!もう寢る時分ぢやないか!』と其子供等を呼びました。種々の口實を設けて、皆な殘らず立去つた後には、唯た愛ちやん一人になつて了ひました。

『玉ちやんの事を話さなければ可かつた』と悲しげな聲で愛ちやんが呟きました。『誰も此處に居たもので、玉ちやんの好きなものはないと見える、だけど、屹度玉ちやんは世界中で一番良い猫に違ひないわ!おゥ可愛い玉ちやん!私は今迄のやうに始終お前の傍に居られるかしら!』云つて憐れな愛ちやんは、心細くなつて急に又泣き出しました。

暫くして愛ちやんは遠くの方で、パタ/\小さな跫音のするのを聞きつけ一心に其方を見戌つて居ました、鼠が機嫌を直して、戻つて來て、彼の話を終までして呉れゝば可いがと思ひながら。

Chapter 4 of 13
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