一
――おい、この間、三の酉へ行ったろう? ……
ズケリといって、ぼくは、おさわの顔をみたのである。
――えゝ、行ったわ。……どうして? ……
と、おさわは、大きな目を、くるッとさせた。
――しかも、白昼、イケしゃァ/\と、男と一しょに、よ……
と、ぼくは、カセをかけた。
――あら、よく知ってるわね。
と、そのくるッとさせた目を、正直にそのまゝ、
――おかしいわ。
と、改めて、ぼくのほうにうつした。
――ちッともおかしかァない。……おかしいのはそッちだ……
――みたの、あなた、どッかで? ……
――そうだろうナ、多分……
――わるいことはできないッて、ほんとね。……けど、どこで……どこをあるいてるのをみられたろう?
――それよりも、一たい、何※なんだ、あれ? ……
――あれッて?
――あの男さ。
――あゝ、あれ?
――顔よりも大きなマスクをかけて、さ。……そんなに、人めがはゞかられるなら、何も、昼日中、あの人ごみの中を、いゝ間のふりに、女を連れてあるかなくったっていゝじゃァないか?
――そうだわよ。……そう思ったわよ、あたしだって……
――それだったら、なぜ止させなかったんだ? ……ウスみッともない……
――だって、それほどの人じゃァないんですもの。
――それほどの人じゃァない?
――そうよ。
――それほどの人じゃァないのに、君は。……そんな男と、あゝして? ……
――えゝ、そうよ。……一人じゃァ寂しいから、ヒョイと出来ごゝろで誘ったら、すぐに附いて来たのよ、あの人……
と、おさわは、ケロリとしたもので
――あたし、戦争がすんだあとでも、まだ、ずッと、上州の田舎に疎開したまんまでいたこと、いつか、話したでしょう? ……その間でも、あたし、お酉さまだけは、毎年、欠さなかったのよ。
――ということは、毎年、わざ/\、そのために、上州の田舎から東京へでゝ来たってわけか?
――えゝ、そう……
――何んだって、また、そんなに信心なんだ、お酉さまが? ……
――信心じゃァないのよ、好きなのよ。
――好き?
――そうなのよ。……好きなのよ、お酉さまが、たゞ……
――だって、好きッてのは……
――おかしいでしょう? ……そうよ、おかしいわ、わけをいわなければ……
と、自分で、自分をうなずいてみせ
――あたしね。……じつは、これでも、吉原の生れなのよ。
――吉原の?
――知らなかったでしょう?
――初耳だ。
――だって、あたし、だれにも、めッたに、いわないんですもの、それを……
――どうして、さ?
――それをいうの、かなしいんですもの……
といって、そッと目を伏せるようにしたかと思うと
――ウ、フ、フヽヽ……
と、急に、おさわは、いかにもおかしそうに、声をだしてわらった。
――ねえ、顔より大きなマスク。……うまいこというわね、あなたッて人。……ほんとにそうだったわ、顔より大きかったわ、あのマスク……