Chapter 1 of 1

Chapter 1

あるお百姓さんが、牝牛を市場へ追っていって、七ターレルで売ってきました。かえり道に、池のはたをとおらなければなりませんでした。まだ池までこないうちに、もう遠くのほうから、カエルたちが「アク、アク、アク」と、ないているのがきこえてきました。

「まったく、うるさくがなりたてやあがる。」

と、お百姓さんはひとりごとをいいました。

「おらのもらった金は七だぞ。八じゃねえや。」

お百姓さんは水ぎわまできますと、カエルたちにむかって、

「てめえたちゃ、なんてばかだ! わからねえのかよ。七ターレルだぞ。八じゃねえんだ。」

と、どなりました。

それでも、カエルたちは、やっぱり「アク、アク、アク」と、なきつづけています。

「ようし、ほんとにしねえんなら、てめえたちの目のまえで勘定してみせてやらあな。」

こういって、お百姓さんはポケットから金をとりだして、二十四グロッシェンずつで一ターレルと、合計七ターレルをかぞえあげてみせました。

けれども、カエルたちは、そんな勘定にはおかまいなしに、またもや、「アク、アク、アク」と、なきたてました。

「ええい。」

と、お百姓さんはすっかり腹をたててどなりつけました。

「これでも気がすまねえんなら、てめえたちで勘定しろい。」

そして、カエルたちのいる水のなかへ、金をそっくりほうりこみました。お百姓さんはそのまま立っていました。カエルたちが勘定をすまして、金をかえしてくれるまで、待っているつもりだったのです。ところが、カエルたちはがんこで、ひっきりなしに、「アク、アク、アク」と、なきたてるばかりです。そして、金などはなげかえしてもくれませんでした。

お百姓さんはなおしばらく待っていましたが、そのうちに日がくれてきましたので、うちへかえらなければならなくなりました。そこで、カエルたちを口ぎたなくののしって、どなりました。

「やい、やい、水んなかのバチャバチャ野郎の、でか頭の、ぐりぐり目玉め。てめえたちゃ、ばかでっかい口をしてやがって、耳もいたくなるほどギャア、ギャア大さわぎしゃあがるくせして、七ターレルの勘定もできねえじゃねえか。てめえたちの勘定がすむまで、おらがここで待ってるとでも思ってんのか。」

こういいすてて、お百姓さんは歩きはじめました。しかし、カエルたちは、あいかわらずそのうしろから、「アク、アク、アク」と、ないていました。で、お百姓さんはぷんぷん腹をたてて、うちへかえりました。

それからしばらくして、お百姓さんはまた牝牛を一頭買いました。お百姓さんはそいつを殺して、さて、どのくらいになるだろうかと、胸で計算をしてみました。肉をうまく売れば、牝牛二頭ぶんぐらいの金にはなるでしょうし、それにまだ皮ものこるというものです。そこで、お百姓さんは肉をかついで町へでかけました。町の門のまえまできますと、犬がひとかたまりになってかけてきました。みれば、大きな猟犬が先頭にたっています。そいつが肉のまわりをとびまわって、くんくんかぎながら、「ワス、ワス、ワス、ワス」と、ほえたてました。

ところが、犬がいつまでたってもなきやまないので、お百姓さんは犬にむかっていいました。

「よしよし、わかった、わかった。おめえ、この肉がちっとばかしほしいもんだから、『ワス、ワス(すこしの意味)』っていってんだな。だがな、おめえにこいつをくれちまったら、おらのほうがうまくいかねえでの。」

けれども、犬はやっぱり「ワス、ワス」とへんじをするばかりです。

「おめえ、ほんとに肉をみんなくっちまわねえか。そこらにいるおめえのなかまのことも、うけあえるか。」

「ワス、ワス。」

と、犬がいいました。

「ようし、おめえがそんなにまでいうんなら、おめえにまかせんべえ。おら、おめえをようく知ってる。おめえの奉公さきも、ちゃあんとわかってる。だがな、いいか、三日たったら、きっと金をもらうぞ。約束をまもらなかったら、ただではおかねえぞ。とにかく、おめえがおれんとこへ金をもってきさえすりゃいいんだ。」

それから、お百姓さんは肩から肉をおろして、また、いまきた道をひきかえしました。犬どものほうは、たちまち肉をめがけておどりかかって、「ワス、ワス」と、大声にほえたてました。

お百姓さんはそれを遠くのほうできいて、ひとりごとをいいました。

「ほほう、あいつら、みんなちっとばかしほしがってやがる。だが、でっかいやつが、おらにうけあってるだ。」

三日たちますと、お百姓さんは、今夜は金が手にへえるぞと、考えて、ほくほくしていました。ところが、だれも金をはらいにはやってきませんでした。

「もう、だれも信用できねえ。」

と、お百姓さんはいいました。

とうとう、がまんができなくなって、お百姓さんは町の肉屋へでかけていき、金をはらってくれとねじこみました。肉屋はじょうだんだとばかり思っていましたが、お百姓さんはいいました。

「じょうだんごとじゃあねえ。おら、金をもらうだ。三日めえに、おめえさんとこのでっかい犬が、ぶち殺した牝牛を、まるごともってこなかったかね。」

肉屋はおこって、そこにあったほうきの柄をつかむと、いきなりお百姓さんをたたきだしてしまいました。

「だが、待てよ。世のなかにゃあ、まだ道理ってものがあらあな。」

お百姓さんはこういうと、王さまのお城へでかけていって、うったえごとをきいてください、と、ねがいでました。お百姓さんは、王さまのまえにつれだされました。王さまはお姫さまといっしょにすわっていましたが、お百姓さんを見ますと、どんなめにあったのかと、たずねました。

「ああ、犬とカエルがおらのものをとりましたで。そいから、肉屋のやつは、金のかわりにおらに棒をくらわしたでごぜえます。」

こういって、お百姓さんは、ことのしだいをくわしく話しました。それをきいたお姫さまは、大きな声でわらいだしました。すると、王さまはお百姓さんにいいました。

「いまここで、おまえのもうすことがただしいとはきめられぬが、そのかわり、おまえにはわしのむすめをよめにやろう。むすめは生まれてからまだいちどもわらったことがない。それがいま、おまえをわらったのだ。わしは、むすめをわらわせたものに、むすめをやると約束してあるのだ。おまえは、幸運のお礼を神さまにもうすがよい。」

「いやあ、お姫さまなんぞいりませんや。うちにゃ、たったひとりのかかあがいますだが、あいつひとりでもおおすぎまさあ。うちへけえりゃ、あっちのすみにもこっちのすみにも、かかあが立ってるような気がしますだ。」

と、お百姓さんはこたえました。

すると、王さまはおこって、

「おまえは礼儀を知らぬやつだ。」

と、いいました。

「でもなあ、王さま。」

と、お百姓さんはこたえました。

「牛からは、牛肉しかとることはできねえでごぜえますでな。」

「待て。」

と、王さまがまたいいました。

「おまえには、べつのほうびをつかわすことにする。いまはさがって、三日たったら、もういちどまいれ。そのとき、五百つかわそう。」

お百姓さんがお城の門のまえまできますと、番兵がいいました。

「おまえはお姫さまをわらわせたな。なにかそうとうのごほうびをいただいたろう。」

「うん、そのとおりだ。」

と、お百姓さんはこたえました。

「五百くださるってえことだ。」

「おいおい、おれにもちっとわけてくんなよ。おまえ、そんなにたくさんの金をもって、どうするんだ。」

「おめえのこったから、二百やらあ。三日たったら、王さまのところへ名のってでて、それだけもらいな。」

と、お百姓さんがいいました。

ひとりのユダヤ人がその近くにいて、この話をきいていました。ユダヤ人は、すぐにお百姓さんのあとを追っていって、いいました。

「すばらしいことになりましたなあ。おまえさんは、なんてしあわせものなんだろう。わたしが両替して、小銭にかえてあげましょう。ターレルのような大きな金じゃ、しようがないでしょうから。」

「ユダ公かい。」

と、お百姓さんはいいました。

「おめえにゃ、まだ三百のこってら。いますぐ、小銭で三百くんな。あと三日たちゃ、王さまんとこで、それだけはらってくださらあ。」

ユダヤ人はちょっとしたもうけにほくほくして、質のわるいグロッシェン貨でこの金額をもってきました。グロッシェン貨なら、三枚でも、質のいい金の二枚ぶんの値うちしかないのです。

三日たったところで、王さまのいいつけどおり、お百姓さんは王さまのまえにでました。

「この男の上着をはぎとれ。」

と、王さまがいいました。

「五百つかわすのだ。」

「あの、もうし。」

と、お百姓さんはいいました。

「その五百は、もうおらのもんではござりません。二百は番兵にくれてやりました。あとの三百は、ユダヤ人が両替してくれましただ。法律のうえからいや、おらのものは一文もねえでござります。」

そこへ、番兵とユダヤ人がやってきて、お百姓さんからうまくせしめたつもりの金を、いただきたい、ともうしでました。そのため、ふたりはまちがいなくその数だけうたれました。番兵はじいっとがまんしていました。もうまえから、この味を知っていたからです。けれども、ユダヤ人はひいひい泣きわめいて、

「ああ、いたっ。これが約束のターレル金貨ですかい。」

と、いいました。

王さまは、お百姓さんをわらわずにはいられませんでした。そして、いままでの腹だたしさもすっかりきえてしまって、こういいました。

「おまえは、ほうびをもらわぬうちに、なくしてしまったから、わしがうめあわせをしてやろう。わしの宝ぐらへはいって、ほしいだけ金をもってくるがよい。」

お百姓さんはすぐさまとんでいって、大きなポケットへ、はいるだけぎゅうぎゅうにつめこみました。それから、茶店へいって、金をすっかりかぞえてみました。

ユダヤ人は、お百姓さんのあとからそっとついていって、お百姓さんがひとりでぶつぶついっているのをききました。

「王さまのとんちきめ、やっぱりおらをだましゃあがった。こんなに金をくれなきゃ、おらの金がいくらあるだか、ちゃんとわかるになあ。これじゃ、手あたりしだいにねじこんだやつが、いくらになるのか、見当もつきゃあしねえ。」

「とんでもねえ。」

と、ユダヤ人はひとりごとをいいました。

「あの野郎、王さまのことを、あんなにひどくいってやがる。ちょいと走ってって、おとどけしてこよう。そうすりゃ、このおれはごほうびがもらえるし、あいつは罰をくらうだろう。」

王さまは、お百姓さんのいったことをききますと、かんかんに腹をたてました。そして、ユダヤ人にむかって、おまえいって、そのふとどきものをひきつれてこい、といいつけました。

そこで、ユダヤ人はお百姓さんのところへかけつけました。

「おまえさん、ぐずぐずしないで、いますぐ王さまのところへいくんだよ。」

「どうすりゃええか、おらのほうがよく知ってら。」

と、お百姓さんがこたえました。

「まず、おらにあたらしい着物をこせえさせてくんねえ。なあ、そうだろ、ポケットにこんなにたくさんの金をもってる男がよ、古いおんぼろ服のまんまでいかれもしねえじゃねえか。」

ユダヤ人は、お百姓さんがほかの上着をきないうちは、とてもつれていくことができないとみてとりました。それに、王さまのいかりがしずまったら、じぶんはほうびももらえなくなりますし、お百姓さんは罰をうけないでもすむかもしれません。そう思いますと、気が気でなくなりました。そこで、

「おまえさんは友だちだから、ちょっとのあいだだけ、おれがきれいな上着をかしてやろう。人間てのは、なんでも愛の気持ちでやるものさ。」

と、いいました。こういわれますと、お百姓さんも承知しました。そこで、ユダヤ人の上着をきて、いっしょにでかけました。王さまは、ユダヤ人のつげ口したわる口のことをいいたてて、お百姓さんをしかりつけました。

「あれまあ。」

と、お百姓さんはいいました。

「ユダヤ人なんかのいうことはうそばっかりでごぜえます。あいつらの口からは、ほんとのことはひとことだってでたことはごぜえません。だいいち、ここにいる野郎なども、おらがこいつの上着をきているなんていいたててますだ。」

「なんだと。」

と、ユダヤ人はさけびました。

「その上着がおれのじゃないと? そいつは、おまえが王さまのまえにでられるように、つい、気やすい気持ちからかしてやったもんじゃあないか。」

それをきいて、王さまは、

「ユダヤ人は、わしかこの百姓か、どっちかひとりをだましたにちがいない。」

と、いって、またまた、さっきのターレル金貨を、さらにいくつかユダヤ人にくらわせました。

お百姓さんのほうは、いい上着をきて、ポケットにたんまり金をいれて、うちへかえりました。そして、

「こんどは、うまくあてたもんだ。」

と、いいました。

●図書カード

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