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七時には一同洞内の大テーブルをかこんだ。テーブルの上には湯気が立つスープ、コーンビーフ、小鳥やき、チーズ、ゼリー、水をわったぶどう酒などがある。一同は腹がはちきれるまで食べたり飲んだりした。なかには動けなくなってコクリコクリ居ねむりをはじめたものもあった。「だが諸君」とゴルドンはいった。「ぼくらは今後この洞穴のなかで生命をつながなければならん、それはひっきょう山田先生のおかげである、ぼくらは礼として、まず山田先生の墓に、おじぎをするのが至当じゃなかろうか」
「それはそうだ」
ドノバンも富士男も賛成した。一同はうちつれて山田左門の墓にもうで、ゴルドンの慷慨淋漓たる弔詞のもとに礼拝をおわった。
九時になった、ドノバンとイルコックが見張り番をすることになって、一同は前後も知らずにねむった。
翌日から一同はいかだの貨物運搬をつづけた。それからいかだをといて、その木材を岩壁の下につみあげた。
工学博士バクスターは、洞の壁がさまでかたくないのを見て、そこをうちぬいてかまどの上に煙突をつけたので、モコウは非常に喜んだ。
ドノバン(米)サービス(仏)ウエップ(独)グロース(米)の四人は毎日銃をかたにして、森や沼をさがしまわっては、必ず多少の小鳥をうって帰った。ある日かれらは、湖畔にそうて一キロメートルばかり北の森のなかにはいってゆくと、そこに人の手をもってほったとおぼしき深い穴がいくつもあるのを見た。穴の上にはちょうどおとし穴のように、表面だけ木の枝や草などを縦横にかけわたしてある、そのなかの一つの底には、動物の骨のようなものがちらばってある。
「なんだろう」
とサービスがいった。
「たぶん山田先生がけものをとるためにほったおとし穴だろう」
「そうかね」
サービスは腕をくんでしばらく考えてからいった。
「それじゃ、この穴をかくしておこうじゃないか、ひょっとしたらなにか大きなけものがひっかかるかもしれないよ」
「そんなことがあるもんか、ぼくらがこうして毎日鉄砲をうつから、けものは遠くへ逃げてしまったよ」
「だが、どうかしてくるかもしらない」
サービスは三人の笑いをよそにして、一生けんめいに木の枝を運んで穴をかくした。
天気は日ましに寒いが、湖や川が結氷するほどではなかった。幼年組は毎日水辺へいって魚をつった。そのためにモコウの台所には魚のない日はなかった。
だがここにこまったのは物置きのないことであった。どこか岩壁のあいだに適当な物置き庫がなかろうかと富士男は四、五人とともに、北方の森のなかをさがしまわった、するととつぜん異様のさけびがいんいんたる木の間にきこえた。
「なんだろう」
一同はすぐ銃口をむけて身がまえた、そのなかに富士男とドノバンはまっすぐに声のほうをさして進んだ。と見ると、そこはかつてサービスが木の枝をむすんでかくしておいた、穴のほとりであった。
声はまさしく穴の底である。縦横にわたした枝はくずれおちて、なんとも知らぬ動物が、おそろしい音を立ててくるいまわっている。
「なんだろう」
ドノバンがいうまもなく、富士男は声高くよんだ。
「フハン、フハン、ここへこい」
主人の声をきいたフハンは、矢のごとく走ってきた、かれは主人の顔をちょっとながめて、すぐ穴のはしから底を見おろした、とたんに電光のごとく穴のなかへおどりこんだ。
「みんなこいよ」
と富士男はうしろの少年たちにいった、少年たちは先をあらそうて走ってきた。
「なんだろう」
「ひょうか」
とウエップがいった。
「クーガル(ひょうの一種)かもしれない」
とグロースがいった。
「いや二足動物、だちょうだ」
とドノバンがいった。じっさいそれは、アメリカだちょうと、称せらるるものであった。全身は灰色で、その肉は佳味をもって賞せらる。
「生けどりにしなくちゃ」
とサービスがいった。
「うん、きみが一生けんめいに穴をかくしたかいがあったね」
とドノバンが笑った。
「だが生けどりはむつかしいよ、あの大きなくちばしでつっつかれたらたまらない」
「なあにだいじょうぶだ」
サービスは身をおどらして、穴のなかへとびこんだ、穴のなかでは猟犬フハンと、だちょうが必死になって戦っていた。だちょうは穴がせまいために、つばさを開いて飛ぶことができなかったが、いま最後の力をこめて、フハンの眼玉をつこうとした。そのせつなにサービスはだちょうのながいくびにぶらりとさがった。だちょうは驚いてサービスの頭を、その怪奇なくちばしで二つ三つつついた。
「なにをちくしょう!」
つかれたサービスはものともせずに、だちょうののどをしめつけしめつけした。
「なにか縄をくれ」
「よしきた」
一同は縄やバンドをつなぎあわせて、穴のなかへおろした。
「ひいてくれ」
一同が縄をひくと! 見よ! たくたくたる丈余の灰色の巨鳥! 足はかたくしばられ、恐怖と疲労のために気息えんえんとしている。
「やあ大きなものだなあ」
一同があきれて見まもっていると、サービスとフハンが穴から出てきた。
「うまいぞうまいぞ、当分ごちそうができるぞ」
とモコウはおどりあがって喜んだ。
「じょうだんじゃない、これを食われてたまるもんか」
とサービスはいった。
「食わずにどうするつもりだ」
「後生だから命だけは助けてくれよ、いまにこれをかいならして乗馬にするんだから」
「だがわれわれの食料の倹約しなければならないのに、この鳥をかう食料はどうするつもりか」
とゴルドンがいった。
「それは心配するなよ、鳥は木の葉や草を食って生きるものだ、われわれの食料とは無関係だ」
「なるほど」
だちょうはサービスに一任することにきめた。この日はとうとう物置きに適当な洞を発見することができなかった。そこでバクスターの考案で、洞の内部の壁のやわらかいところをほって、室をひろげることにした。壁のやわらかいところには、木材の支柱をほどこして崩壊をふせぎ、年長者はつるはしをふるい、年少者は岩くずや石きれを運んでは、洞の外にすてた。
三十日の午後には、五、六尺のトンネルができた、と、とつぜんふしぎな事件が出来した。
富士男はトンネルの奥で、しきりに壁をほっていると、どこやらに奇妙なうなり声をきいた。
「なんだろう!」
ゴルドンもバクスターも、同時にその声をきいた、三人はすぐドノバン、イルコック、ウエップ、ガーネットの年長連をよんで相談した。
「なんでもないよ、洞のなかだからなにかの反響にちがいない」
とドノバンはいった。一同はふたたびつるはしをふるってほりつづけた。と夕方になると、さっきよりもっと近くに、なにものかほゆる声がきこえた。
「いよいよ変だぞ」
声がおわらぬうちに、フハンはあわただしく洞のなかをかぎまわったが、とつぜん疾風のごとく洞の外へ走り去った。一日の労役をおわって一同は晩餐のテーブルについたが、フハンは帰ってこない。
「フハン、フハン」
みんながよんでも、やっぱりフハンのすがたは見えない。ドノバンは湖辺へゆき、イルコックは川の岸にのぼり、一同は手をわけてフハンをさがした。
九時はすぎた、森は暗い、一同はたがいに黙然として洞へ帰った。
「どこへいったろう」
「猛獣にでも殺されたのかもしらん」
人々が語っていると、とつぜんフハンのほえる声がした。
「ああトンネルのなかだ」
富士男はまっさきにトンネルにとびこんだ、年長者は手に手に武器をとって立ちあがった、年少者はいずれも毛布を頭からかぶって、うつぶせになった、すると富士男はふたたびトンネルから出てきた。
「この壁のうしろに、もう一つの洞があるにちがいない」
「そうかもしれないよ、そこにいろいろな動物がすんでいるんだと思う」
このときまたもや、おそろしい咆哮の声がきこえた。
「ああ、フハンが猛獣と戦ってるんじゃなかろうか」
「だが洞の入り口がわからないから、助けにゆけないね」
とイルコックがいった。
富士男はもう一度壁に耳をつけたが、その後せきばくとしてなんの音もない。
不安な一夜をすごして、翌朝ドノバンらは湖のほとりに、フハンをさがしにいった。富士男とバクスターは例のごとくトンネルをほりつづけた。午後の二時ごろ! 富士男はつるはしをとめてとつぜんさけんだ。
「どうもへんだぜ」
「なにが?」
とバクスターはいった。
「このトンネルがほかの洞穴へつきぬけそうな気がする、なにがとびだすかもしれないから、みんな注意してくれたまえ」
ドノバン、イルコック、ウエップらは、手に手に武器をとって身がまえた。年少者はことごとく洞の外へ避難せしめた。
「やあ、これだ」
富士男のうちだすつるはしとともに、ぞろぞろと大きな岩がくずれて、そこに洞然たる一道の穴があらわれた。
「やあ」
声とともにがらがらと地ひびきをさせて驀然おどりだしたる一個の怪物が、富士男の顔をめがけてとびついた。
それはフハンであった。
「やあ、フハン!」
一同のおどろきは喜びの声とかわった。フハンは主人のほおをひとなめしてから、身を転じてバケツの水をしたたかに飲み、それから主人をさそうもののごとく、顔を見あげた。
「だいじょうぶか」
と富士男は笑いながらフハンにいった。フハンはもう一度主人のひざに、頭をすりつけた。
「だいじょうぶらしいよ、諸君、ちょうちんを持ってくれたまえ」
ゴルドン、ドノバン、イルコック、バクスター、モコウらは、ちょうちんをともしてトンネルに進んだ。そうしてくずれた穴をくぐって、つぎの洞へはいると、そこは山田の洞と同じ高さで、二十畳敷きばかりの広さである。だがこの洞の入り口はどこにあるだろう、イルコックは壁のすみずみをみまわしたとたんに、なにものかにつまずいて、たおれそうになった。
「なんだ」
ちょうちんに照らしてみると、まぎれもなきジャッカル(やまいぬの属)の屍体であった。
「ああジャッカルだ」
「フハンがかみ殺したんだ」
「すてきすてき、こんどこそごちそうだ」
とモコウはいった。そうしてサービスにむかい、
「それともきみは、このジャッカルを乗馬にしますかね」
「いくらなんでも死んだものには乗れないよ」
とサービスはまじめな顔でいった。一同は笑った。
だがえものはこれだけでなかった、富士男はこの壁のすみに、洞の入り口があることを発見した、この入り口から外へ出ると、ちょうど湖のほとりになっていた。
翌日からバクスターの設計で、この新しい洞と、古い洞との連絡をひろげ、入り口にはサクラ号からとってきたとびらをとりつけた。
バクスターはさらに思いをこらして、旧洞はもっぱら台所、食堂および物置きにあて、新洞は寝室および読書室となした。
毎日毎日寒い風が吹きつづいていたので、洞外の工事ができなくなった、だが二週間ののちにはいっさいの設備が完了した。だが一同が救いの船を得るのはいつのときか、あらかじめはかりがたい。それまでむなしく遊び暮らすはもったいない話だと、ゴルドンがいいだした。そこで一定の時間をきめて、課程を学習することとなり、年長者はそれぞれ年少者に教えるべく、分担をきめた。
六月十日の夕、晩餐後の雑談はことにうれしかった。年少者のドールはとつぜんこういった。
「ぼくらが住んでるこの島にも、いろいろ名があるの?」
「無人島だから名はないかもしらん」
とゴルドンは答えた。
「でも、名がないとこまるじゃないの? ぼくらのこの家だって、なんという町かわからない」
「それはもっともだ、諸君、今夜みんなで相談して、名をつけようじゃないか」
「賛成賛成」
「モコウ! 命名式だからコーヒーをごちそうしてくれたまえ」
モコウがつくってくれたコーヒーに舌つづみをうって、一同はストーブをかこんだ。
「まず順序からいうが、ぼくらが第一番に漂着した港は、船の名にちなんで、サクラ湾としたいと思うがどうだ」
とドノバンはいった。
「賛成賛成」