Chapter 1 of 11

現実といふ意味

現実に接触したところに今の新興文芸は生れたのだと言はれる。現実なるものゝ意味をよく了解することの必要なるは言ふ迄もない。然るにその根柢を為して居る現実が、多くは空疎な抽象的のものになつて了つたり、大ざつぱなものになつて了つたりして、まだ真に実際的の現実を理解し飲込んで筆を執るといふ態度の尠ないのは甚だ心細い、例へば処女が妻となり、母となつて現実に触れて行く事実は世の中に有りあふれた日常の些事である。その平凡な事でも真率な心を以てマジメに考察し研究して見ればそれが動かすべからざる実際の現実である。殊更に特異な感じや、事件の発展に興味を繋いで居る人達は、やはり空な現実に煩ひされて居るからであるまいか。

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