Chapter 5 of 25
(1)虻田の海岸にあるアフンルパ
室蘭本線、虻田と豊浦の間の海岸に、アフンルパと称する洞窟がある。それについて、次のような伝説が伝えられている。
むかし、アブタの酋長が、妻に死なれて、悲嘆のあまり、何もする気がなくなり、寝てばかりいた。そこへある日、気の合う男がやって来て、磯魚とりに行かないかと誘った。どういうわけか、その時にかぎって行ってみようかなという気になったので、めいめい自分の舟に乗って、連れだって出かけ、チャシのある近所まで漕いで行くと、女がひとり磯菜をとっている。その履いているわらじが裏返しになっている。どうもその後姿が死んだ妻にそっくりである。そこで二人は舟を岩につないで岸に上り、こっそり忍びよった。すると女はひょいとふり向いた。やはり死んだ妻であった。彼女は二人を見ると、身をひるがえして逃げだし、洞窟の中へかけこんだので、酋長もその後を追って行くと、あの世へ出た。そこで妻の父に会い、いろいろさとされて、この世へかえってくる。そして待っていた男に、あの世の様子をいろいろ話し、ついでに、
「おまえも早く来たらどうだと、あの世からことずてがあったぜ」
とからかった。からかわれた男はぶりぶり恐りながら舟に乗ったが、舟の中にぱったり倒れて、それっきり動かなくなってしまった。逆にあの世へ行って来た男は長生したという。(幌別村出身、故知里イシュレ翁より筆者聞書)
おまえも早く来たらどうだうんぬんというのは、いわゆる「イた・キる」itk-kir(ことばを・ひっくりかえす)、あるいは「ほカ・イた hrka-itk(さかさ・ことば)というやつで、禍を転じて福となすためによく使われる手である。それを使ったので、あの世へ行って来た男が長生きし、待っていた男が身代りに死んでしまったわけである。