Chapter 1 of 52
序
「或は人を天上に揚げ或は天を此土に下す」と詩の理想は即是也。詩は閑人の囈語に非ず、詩は彫虫篆刻の末技に非ず。既往數百年間國詩の經歴に關しては余將た何をか曰はん。思ふに所謂新躰詩の世に出でゝより僅に十餘年、今日其穉態笑ふべきは自然の數なり。然れども歳月遷り文運進まば其不完之を將來に必すべからず。詩は國民の精髓なり、大國民にして大詩篇なきもの未だ之あらず。本邦の前途をして多望ならしめば、本邦詩界の前途亦多望ならずんばあらず。本書收むる所余が新舊の作四十餘篇素より一として詩の名稱を享受するに足るものあらず。只一片の微衷、國詩の發達に關して纖芥の貢資たるを得ば幸のみ。著者不敏と雖ども自ら僭して詩人と爲すの愚を學ぶものに非ず。
東京に於て明治三十二年三月土井林吉