Chapter 1 of 1
Chapter 1
おまへの歯は よく切れるさうな
山々の皮膚が あんなに赤く
夕陽で爛らされた鐃鉢を
焦々して 摺り合せてゐる
おまへはもう 暗い部屋へ帰つておくれ
おまへの顎が、薄明を食べてゐる橋の下で
友禅染を晒すのだとかいふ黝い水が
産卵を終へた蜉蝣の羽根を滲ませる
おまへはもう 暗い部屋へ帰つておくれ
色褪せた造りものの おまへの四肢の花々で
貧血の柳らを飾つてやることはない
コンクリートの護岸堤は 思ひのままに白けさせよう
おまへはもう 暗い部屋へ帰つておくれ
ああ おまへの歯はよく切れるさうな
●図書カード