Chapter 1 of 1

Chapter 1

地は定形なく曠空くして黒暗淵の面にあり

神の霊水の面を覆ひたりき

――創世記

黒暗の潮 今満ちて

晦冥の夜ともなれば

仮構の万象そが※性を失し

解体の喜びに酔ひ痴れて

心をのゝき

渾沌の母の胸へと帰入する。

窓外の膚白き一樹は

扉漏る赤き灯に照らされて

いかつく張つた大枝も、金属性の葉末もろ共

母胎の汚物まだ拭はれぬ

孩児の四肢の相を示現する。

かゝる和毛の如き夜は

コスモスといふ白日の虚妄を破り、

日光の重圧に 化石の痛苦

味ひつゝある若者らにも

母親の乳房まさぐる幼年の

至純なる淫猥の皮膚感覚をとり戻し

劫初なる淵の面より汲み取れる

ほの黒き祈り心をしたゝらす……

おんみ 天鵞絨の黒衣せる夜、

香油にうるほへるおんみ聖なる夜、

涙するわが双の眼を

おんみの胸に埋むるを許したまへ。

●図書カード

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