Chapter 3 of 3
三
ラグビイの選手達はもうみんな引揚げてしまって、運動場には誰もいなかった。二本の棒に横木を渡したゴオルだけが寂しく残っていた。日はすでに落ちて、旧ふらんす領事館と、その森の、黒い影絵がくっきりと黄色い空を染抜いていた。外の電車通りと運動場とを隔てる囲いには、昔の城壁が利用されていた。遠い運動場の隅の入口も、やはり、朱と黄とで塗った、古い朝鮮の宮殿の門であった。その門から朝鮮人が長い煙管をくわえながら、水桶をさげてはいって来た。門の内側に泉が湧いていて、彼等はその水を汲みに来るのであった。何年か前、夏の教練に疲れた三造は、よく其処の水を手ですくって飲んだものであった。
空の色は次第に黒みを帯びた紺色に変りつつあった。プウルでは、三人の中学生が並んで泳いでいた。競泳の選手ででもあるらしく、いずれも、鮮やかな泳ぎぶりであった。彼等は全く良い体格をしていた。その真黒な身体を、素直に伸びた足を、筋肉の盛上った肩つきを、三造は此の上なく羨ましいものに思った。彼は自分の生っ白い腕を眺め、彼等に対して、ひけめを感じない訳にはいかなかった。丁度何年か前、上級生に打たれた時に感じた、あの「肉体への屈服」と、「精神への蔑視」とを、彼は再び事新しく感じるのであった。
●図書カード