Chapter 1 of 1

Chapter 1

七銭でバットを買つて、

一銭でマッチを買つて、

――ウレシイネ、

僕は次の峠を越えるまでに、

バットは一と箱で足りると思つた。

山の中は暗くつて、

顔には蜘蛛の巣が一杯かかつた。

小さな月が出てゐるにはゐたが、

それでも木の繁つた所は暗かつた。

ア、バアバアバアバ、

僕は赤ン坊の時したことを繰返した。

誰も通るものはなかつた。

暫くゆくと自転車を坂の下に落として、

自分一人は草を掴めば上れるが、自転車を置いとくわけにもいかず

といふ災難者にあつた。

自転車に紐か何か付いてるでせう、と僕は云つた。

へい、――それには全く気が付きませんでした、

自転車は月の光を浴びながら、

ガタ/\といつて引揚げられた。

――いつたい何処までゆきなさる、

――いえ、兄の嫁の危篤を知らせに、此の下の村まで一寸。

自転車の前の、ランプが灯つた。――おとなしさうな男である。

僕は煙草に火を点けて、去りゆく光を眺めてゐた。

アババババ、アババババ、

●図書カード

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