Chapter 10 of 13
四万温泉の丑の刻
丑満ごろに、闇をつんざいて聞えた鬨の声、ただならぬ廊側の足音、てつきり『山賊襲来』と思つたのは、丑の刻を知らせる田村旅館の番頭達の怒鳴り声であつた。童謡一篇。
◇
四万の田村の
番頭さん達は
ヨイヨイヨイサ
鬨の声あげて
丑の刻知らす
ヨイヨイヨイサ
夜の夜中だ
番頭さんも眠い
ヨイヨイヨイサ
眠い顔して
鬨の声あげた
ヨイヨイヨイサ
丁度この日は土用の丑の日である。丑の日の丑の刻に温泉に浸ると万病に特効があるといふしきたりから浴客に時刻を知らせたのである。親切な番頭さん達だ。童謡一篇。
◇
起きなお客さん
丑の刻ア来たよ
はやく起きぬと
丑の刻ア帰る
一度帰れば
今年は来ない
寝ぼはきらひだ
お寝ぼはいやだ
帰ろ帰ろと
風呂場を見てる
起きなお客さん
丑の刻ア来たよ
次の日、中之条まで戻つて、長野街道を再び吾妻川の本流にそふて出かけた。四万温泉の眺望は変化に乏しかつた。民謡一篇。
◇
四万でわく湯も
大利根川の
末にや流れの
水となる