巡洋艦『最上』の秘密
諸君、僕はわが海軍の軍機を洩すようで非常に心苦しいのだが、諸君にだけある重大な秘密をお告げしたい。
それは今、建造中の巡洋艦『最上』『三隈』『吉野』『千種』の四隻に関する秘密だ。
この四隻は同じ型の姉妹艦で、海軍省の発表によると、噸数は八千五百噸、武装は十五糎砲十五門、十二糎高角砲四門で、速力は三十三ノットだ。
この数字を見ただけでも、『最上』級が立派な世界一流の軽巡洋艦であることがわかる。現に米国海軍あたりではわが艦政本部が非公式に発表した『最上』の設計図を見て、舌をまいて驚いているのだ。
設計者は世界造船学界の権威、海軍技術研究所の第一部長、武田敏夫博士である。
武田博士は工学博士でしかも造船大佐だ。
英国ケンブリッジ大学のパークス博士は、
「今、世界の十大学者の中、三人までは日本人である。一人は東北帝大の本多光太郎博士、も一人は大阪帝大の長岡半太郎博士、最後の一人は海軍技術研究所の武田敏夫博士だ。」
と言った。
前軍令部長の加藤大将も、
「東郷元帥と武田博士は、わが海軍の生んだ二大国宝である。」
と折紙をつけている。
諸君、その武田博士が苦心惨憺、心血をそそいで設計したのが『最上』級四隻だ。今さら米国海軍が舌をまいて驚いたって、何も不思議ではない。
ところが『最上』級には、もっともっと発表されない秘密があるのだ。
第一の秘密は鋼鉄である。
『最上』に使ってある鉄は、ただの鋼鉄ではない。
今まで世界で一番強い鋼鉄は、有名なドイツのクルップ兵器会社でこしらえるニッケル・クローム鋼だった。
しかしわが『最上』の鉄は、クルップの鋼鉄よりずっとずっと強いのだ。その鉄の名は『本多鋼鉄』――言わずと知れた前東北帝大金属材料研究所長本多光太郎博士の製品である。
今、仙台の東北帝大は、憲兵が厳重に警戒している。金属研究所の加熱炉の中では鋼鉄の塊が千六百度の猛火で焼かれているのだ。
焼いて焼いて焼きつくした鋼鉄に、ある秘密の工夫を加えて出来上る『本多鋼鉄』は、クルップ鋼鉄の約三倍の強さを持っている。
だから、この新しい鋼鉄で出来た『最上』の防禦力が、どんなに強いかは諸君にも想像出来るだろう。
『最上』の装甲は三吋(七・六糎)だ。しかし、この強さは九吋の装甲に負けないのである。諸君の知っている通り、戦艦『金剛』や『榛名』の装甲は八吋(二〇・三糎)だから、『最上』の方が強いわけである。
ああ戦艦よりも強い軽巡洋艦!
――こんな怪物が今や、呉工廠、横須賀工廠、神戸川崎造船所、長崎三菱造船所の四大工場で、一日一日と完成に近づいているのだ。
これが、出来上ったら、太平洋の作戦はガラリと変ってしまう。
米国の大巡洋艦『シカゴ』の姉妹艦十五隻は、『太平洋の無敵艦隊』と自称して威張っている。なるほど噸数は一万噸、大砲は二十糎砲だからすごいには違いないが、憐れむべし、防禦力が零である。十五糎砲弾を喰ったらすぐに穴があく。いや、わが駆逐艦『吹雪』の十三糎砲に狙われたって危いだろう。
前軍令部長のプラット大将さえ、
「わが大巡洋艦はブリキ張である。」
と白状しているのだ。
諸君、かれ等『ブリキ張』のひょろひょろ大巡洋艦と、わが『本多鋼鉄』の鎧を着た軽巡洋艦とが、太平洋上で戦う時のことを想像して見たまえ。胸がおどるではないか。血がわくではないか。
設計は武田博士、鋼鉄は本多博士、この世界的二大学者の脳漿のかたまりが、栄ある『最上』『三隈』『吉野』『千種』だ!