Chapter 1 of 3

「チャールズ卿、ひどい事件ですね。必ず対処します」

とニュートン・ムーアが答えた。

チャールズ・モーリィ卿がニヤリ。外務省の大御所チャールズ・モーリィ卿が全幅の信頼を寄せているのが、この有名なムーア諜報部員、その手法を高く評価している。

「常識外れの事件だから、要点を教えておこう」

面白い話をチャールズ卿がする羽目になった。

インド国境の北西に広大な山岳地帯があり、温厚なアルメディ族が統治している。時がたち、生まれながらの戦士であるアルメディ族は、インド政府と深刻なゴタゴタを引き起こすようになった。

戦略的にあの地域は難攻不落だが、アルメディ族の忍耐強さと言い、胆力と言い、尊い血はもちろんのこと、実に驚くべきものであり、現在、アルメディ国はロシア南進の緩衝地帯となっている。

いまこの国はとても平穏、英国の宗主下にあるからだ。ただしアルメディ国の頭目である現・カラハミ大公は事実上専制君主であり、インド政府に対して友好的にふるまいながら、かなり好き放題なことをやっている。

やがて、神出鬼没の英国冒険家がアルメディ国に入り、住み着いた。茶の木を植えて収穫し、鉱物資源を探索し、見つけた。

必然的に企業が進出し、カラハミ大公から大規模な採掘権をもらい、見返りに総額五万ポンド余りの大英銀行約束手形を、浅黒い肌の支配者カラハミ大公に渡した。

この些細な出来事は一年前のことである。その後、企業側が驚いたことに、カラハミ大公は心変わりして、鉱山をロシア会社の抵当に入れてしまった。企業側が採掘権に現金を支払ったと抗議したが無駄だった。金など受け取ってないと、カラハミ大公は平然とうそぶく。

当然、企業代表が出向いて大公を訪ねたところ、新たに金を要求するものだから、渋々拒否し、その場を蹴って帰ったが、アルメディ国大公はすっかりしらばくれてしまった。母方の祖父の墓に誓って、知らないという。

チャールズ卿が説明した。

「実をいうと、確信しているのだが、スタンモア社長と秘書のリバー氏はカラハミ大公の策略で金を奪われたうえ、卑怯にも殺された。いまロシアが自国の為に進出中だが、戦略上の理由で成功は許し難い。カラハミ大公から真実を聞き出さないと、事態が深刻になるかもしれない。大公に自白させれば、ロシアは無力化して、ゲームから撤退する。真実を探り、カラハミ大公から釈明を求めることが君の仕事だ」

「インドのことは何も知りませんが、ご命令とあれば何事も引き受けます」

チャールズ・モーリィ卿が笑みを浮かべ、

「君を高く買っているので、余計な危険にさらすわけにいかん。仕事はロンドンで完結するよ」

「嬉しくないとは言いませんが、やり方が全く分かりません、チャールズ卿」

「カラハミ大公がロンドンにいるんだ」

「ええっ。新聞に書いてないとは変ですね」

チャールズ卿が淡々と言った。

「たびたび、大公は極端な隠密行動をとる。たまたま分かったのだよ。もちろん前から間違いないと確信しているのだが、スタンモア社長とリバー氏はカラハミの策略で殺された。何カ月も約束手形が銀行に戻るのを待っていた。その一枚が、きのう現金化され、カラハミの署名が裏書きにあった」

「バカじゃないですか」

とムーアが叫んだ。

「とんでもない。だが大酒飲みだってことは署名でわかる。間違いなく大公の署名だ。手形をたどるとユーストン通りの小さな煙草屋が出所で、店主によれば額に傷のある浅黒い紳士が持ってきて、上客だと言う。その人相ならカラハミとぴったり一致するし、風聞ではロンドンにたびたびやって来て乱痴気騒ぎを起こしている。カラハミはイートンとオクスフォードで教育を受け、躾は少なくとも英国人だよ。当時はアルメディ藩王の次男だった。オクスフォードで不名誉な事件があり、カラハミが兄殺しの首謀者で実際、絞首刑になっても、ちっともおかしくなかった。だが外交上の理由で、あわてて事件をもみ消し、カラハミを帰国させねばならなかった」

ムーアが深くうなずいた。やり方が分かり始めた。

「この逸話を使ってもいいですか」

「ムーア君、その為に教えたのだよ。カラハミは事実上イギリス国民だ。今もここに住んでいるし、君か誰かが真実を調べて、大公の容疑を確定すれば、普通の犯罪者と同様に逮捕できる。君のやり方で追い詰めて、白状させてくれ」

ムーアがほほ笑み、うなずいて、

「そういうことですか。外務省はごたごたを恐れて関わろうとしませんね。私のような一介の個人は気にくわないかもしれませんが、その代わり失った書類のことは秘密にできます、例の正副・署名入りの採掘権利書です。私に一任されました。これが解決すれば、今後ロシア会社を寄せ付けません」

チャールズ・モーリィ卿より地位の低いムーアがウィンクしかねなかった。とにかくモーリィ卿は笑って承認し、

「以上が君にやってもらいたいことだ。さらに情報をつかんだら、喜んで提供しよう」

「少し欲しいですね。手形が現金化された煙草屋の住所と、オクスフォード学生の住所です。同大学の奇妙な事件関係者の住所です。これさえ分かれば、きっと成功します」

チャールズ・モーリィ卿が手書きの紙をムーアに渡して、

「これが必要だろう。任務はきっと成功するよ」

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