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五月二十六日夜の行動を訊いてみると、案の条曖昧である。家の中に、同じ品物が二つ三つ宛あるのが、注意を惹いた。ドュモラル夫婦を引縛いてトレヴォ署の留置所へ打ち込む。マリイ・パションに首実検をさせると、一眼見てこの男だと証言した。一方、ドュモラル村の家を捜索する。衣類、肌着、レイスの切れ端、リボン、外套、手巾、靴、贋の宝石等――一言にいえば、女中の有って居そうな品物の夥しい堆積が現れた。言う迄もなく犠牲者の所有品である。多くは血が附いた儘だ。ざっと洗って皺になっているのもある。全部で千二百五十七点。暢気な仏蘭西の巡査も、これには呆れて、
「此奴、自家用納骨堂は何処に在るんだ――?」
仲なか泥を吐かない。周囲から証拠固めに掛った。段だん洗って往くと、以前一度、ドュモラルは若い女と一緒にモンルアルで汽車を降りて、明朝取りに来るからと、駅の一時預けに女の荷物を残して行ったことがあるという事実が出て来た。見ていた者があるのだ。が、荷物は預けっ放しになって、誰も受取りに来なかった。
細君のジャンヌ・ドュモラルの方が徐そろ折れて来て、
「申上げます。実は、其の晩うちの人は、銀時計と血の附いた着物を持って、晩くなって帰宅って来ました。私に着物を渡して、洗濯しろと言いますから、何うしたんだよと訊きますと、例もの面倒臭そうな口調で、なあに、今其処のモンマンの森で女を一人殺して来た。これから引返して一寸埋めて来る。そう言って、鍬を担いで出て行きましたが、翌る日駅に預けてある女の荷物を取りに行くと申しますから、それは危険い、止したが宜いと言って停めたので御座います」
この陳述を確かめる為に、七月三十一日、現場の検証となった。夫婦を引いて、警官の一隊がモンマンの森へ出張する。この鬼夫婦を見ようと言うので、近郷近在から大層な人出、まるで競馬かお祭礼みたいに物売りの店が立った。仏蘭西らしいナンセンスだった。
森中捜し廻ったが、何ら発見されない。ドュモラル夫人は、何処へ屍体を埋めたか知らないのだし、ドュモラルは、何と小突き廻されても、魚のように黙りこくっている。やっと潅木の間に塚のようになっている個処を発見して、鳥渡鍬を入れて試ると、直ぐ白い骨が出て来た。周囲を円く、注意深く掘り下げる。完態を備えた女性の骸骨が現れた。頭部に強打を受けたらしく、頭蓋骨が無残な破損を見せている。頭の下に当る土中に、鳶色の毛髪が脱落して、それに、二つ折りの大きな髪留が絡んでいた。
ドュモラルのおやじに突き付けても、顔色一つ変えない。お婆さんの方は最早すっかり降参していて、今度は一同を、自分が先に立って少し離れたコンミュンの森へ案内した。夜になっている。村民の手を藉りて、松明を点けて捜索を続ける。が、何分暗くて意に任せない。明日の事にして引上げようとすると、ドュモラル、何を思い出したか急に笑い出して、御一同の探している場所をお報せしましょうと味なことを言った。
五十碼程森の奥へ這入ったところで、確か此処らですと言うから、手分けして綿密に検べ始めると、三十分程して警官の一人が、何となく、人為の跡の見える草叢を発見した。土が置き換えたようになって、草や木の生え具合にも、態とらしいものが読まれる。松明を近付けると、其の光野を乱して銀蝿の群が舞い立つ。
土の成分が独特なのだろう。防腐剤の性質を含んでいたに相違ない。若い女の屍体、少しも腐っていないで、綺麗なものだった。生きているようだ。全裸体である。仰臥して脚を開き、片膝を立て、左手は乳房を覆うように、そして右手に一塊の土を握っている。まだ生きて意識のある内に埋めたのだろうとなって、それには一同、顔を外向けた。
ドュモラルの老爺は平気。それでも、流石に余り愉快ではないとみえて、屍骸の顔だけは見ないようにしている。もう幾ら白を切っても駄目だ。警官が詰め寄ると、少し巡逡った後、ドュモラルの口からこんな告白が出て来た。
八年前の十二月、儂は里昂で、百姓らしい二人伴れの男に会った。酒場へ連れ込まれて一杯飲り乍ら、色んな事を訊いた揚句、何うだ、一つ仲間に這入らねえかと言うから、何んな事をするんだと訊いたら、なあに、訳あ無え。若い女を誘拐するんだ。一人連れ出しゃあ四十法与る。二十年働けば十万法の賞金を出すと言うでねえか。旨え話しだから早速引請けると、其の場で手筈を決めた。儂の仕事と言うのは、奉公口を探してる女中に態の好いことをいって、町の外部へ誘き出せばいいのだ。一週間程後、プラス・ドュ・ラ・シャラテでもう一度二人に落合って、儂は直ぐ女を探して歩いた。最初のやつは失敗ったが、二番目のは、儂の言う事を真に受けて郊外へくっ着いて来た。途中で例の二人が待っていた。そこで女に、この人達は儂の知人だから、安心して一緒に一足先へ行っているように――儂は鳥渡忘れ物をしたので引返すが、ネイロンで追い付くからと言って、女を二人に引渡した。そして二時間許り其処らをぶら付いていると、二人が帰って来て、約束の四十法と一緒に儂に、お神さんへ手土産を遣ると言って紙包みを呉れた。開けて見たら、血だらけの女服と肌着で、儂が引っ張って来た女の着ていた物だ。あの娘っこあ何うしたかね? 儂が訊くと、もう誰もあの女を見ることはあるめえと言う返答だった。
ネイロンの共同井戸で其の着物と肌着の血を落して、家へ持って帰って嬶あに与えた。里昂の古着屋で買って来たんだと嘘を言った。
儂はよくは知らねえが、二人が女を殺したところは、何でもドュ・バル橋の近くで、屍骸はロウヌ河へ投込んだに違えねえ。
一年余り過ぎて、二月の事だ。初めて二人に会った里昂の酒場に来いと言うから行ってみると、二人は、顔の浅黒い若い女を伴れて先に来ている。これから女が奉公に出るのを送って行くんだと言って、四人で出た。
マラベル街道をロマネッシュまで来ると、彼処に森がある。儂は何だか歩くのが厭になって坐り込んで終った。二人は、何とかして起たせようとしたが、儂が動かねえので、諦めて女を伴れて森へ這入って行った。二時間も待ってみたが、別に叫び声も聞えねえ。が、耐らねえ嫌な事が起ってるような気がして、儂は顫えが止まらなかった。間もなく、二人の男だけ帰って来て、女を向うの百姓家に預けて来たと言ったが、女の着物も何も持って来て居ねえので、やれやれあの阿女っ子は助かったかと思うと、ほっとして、二人に別れて儂はドュモラル村へ帰った。
――これが其の筋の耳へ這入った最初の犠牲者マリイ・バダイユだったらしい――ドュモラルは続ける。