Chapter 1 of 1

Chapter 1

男の子たちはみんな、体中まつ黒にしたいと思ひました。色のなまつ白い男の子なんかは、この漁師の村ではバカにされました。それに夏休みがすんで九月になると、村の小学校では「黒んぼ会」があるのでした。

「今年は、誰が一等賞になるだらう?」

黒んぼ会は、学校中で一番日に焼けた男の子だけ三人選んで、黒いふんどしの賞品をくれるのでしたが、それには会のマークが入つてゐるので、みんな欲しかつたのです。

「ちきしよう、今年は僕がもらふんだぞ。」

「君なんぞ駄目だい。ふんどしの下が白いぢやないか。」

「ぢや、君だつて駄目だい。足の裏が白いぢやないか。」

「足の裏はいいんだぞ。」

「いや、駄目なんだい。去年から徴兵検査みたいに、お尻も足の裏も見るんだから。」

夏休みの終り頃になると、男の子たちは一層色を黒くしようとして、黒いふんどしの下や、足の裏まで日に焼くのでした。

みんな黒んぼ会を、大へん楽しみにして待ちましたが、郵便局の清ちやんだけは、ただ一人ビク/\して恐れてゐました。

清ちやんは尋常二年ですが、去年の黒んぼ会には、一番体が白くて、みんなから「白瓜」といふあだなをもらひました。それは、体の弱いお母さんと一緒に、涼しい山へ避暑に行つてゐたので、村の漁師の子供たちのやうに、一日裸体で海につかつてゐられなかつたからです。

清ちやんは「白瓜」と云はれたことが、とても辛かつたので、今年はどこへも行かずに、暇さへあれば舟を借りて、近所のお爺さんと釣に出たり、浮環をもつて泳いだり、また蝉とりをして日に焼けました。けれどいつも靴をはいてゐるので、跣足になると、足だけ白つぽいのでした。

「困つたなあ、足まで見るんだつて……」

清ちやんが、お尻や足の裏まで見られることを聞いて来て話すと、お母さんは目を円くされました。

「へんな黒んぼ会ねえ。そんなんだつたら、その日だけお休みよ。丈夫でさへあれば、色なんか白くつたつていいんですから。」

「だつて……」

清ちやんは、その日だけ休むと、きつとまた何とか云はれるにきまつてゐるので、その日までに、どうかして、白い自分の足を黒くしたいと思ふのでした。

九月の一番はじめの土曜日が、その「黒んぼ会」の日でした。学校は朝から大騒ぎで、男の子は大抵運動会の日のやうに、シヤツとパンツだけで、中にはわざと、黒いふんどしだけの跣足の子もゐました。

お昼ごはんをすますと、女の子たちは早く家へ帰り、男の子たちだけ列をつくつて、一年生から順々に講堂へ入りました。

靴を脱ぎ、裸体になつた清ちやんは、ブルブルふるへながら、「気をつけエ」の姿勢をしてゐました。清ちやんの足は、体と同じやうにまつ黒でした。

「わからねばいいが……」

受持ちの先生と、体操の先生と、それから校長先生とが、順々にみんなの黒い体や足を見て来られます。清ちやんはハラ/\しながら、でもツンとすましてゐました。

「わからねばいいが……」

でも、やつと助かりました。

清ちやんたちの二年生からは、三人の黒んぼさんが前へ出されました。この三人が、また外の級の黒んぼさんと一緒にされて、その中から、学校での黒んぼさんが三人だけ選び出されて賞品をもらふことになるのです。

「助かつたツ!」

講堂を出て行く時、清ちやんはホツとして、今まで自分の突つ立つてゐた場所を、そつと横目で見ました。そしてドキツとしました。

そこには清ちやんの黒い足跡が、影絵のやうにくツついてゐたからです。

清ちやんは大急ぎに飛び出して、汗を流しながら靴をはくと、見向きもせずにお家へ帰つて来ました。そして井戸端へ来て、黒い足に水をかけると、タワシでゴシ/\とこすりました。

そこへ、お母さんが出て来られました。

「あら、誰かと思つたわ。黒んぼ会はもう終つたの? あんた、どうだつた?」

「ぼくねえ、あれなの、上等の方なの。足だつて黒かつたし。だけどね、靴墨をぬつてたので、講堂に足跡を残して来ちやつたア。」

二人とも笑ひました。笑ひながらお母さんは、シヤボンを出して来て清ちやんの足の靴墨を、すつかり洗ひ落して下さいました。

―昭和一〇年八月二三日作―

●図書カード

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