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三太郎の日記 第二
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三太郎の日記 第二
阿部次郎
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번역 Pagera AI
원문 Public Domain
Chapter 6 of 60

1

俺は未だ究竟の意味に於いて關門を突破した時の爽快と清朗との味を知つてゐるとは云ひ難い。第一義の生活に於いて、俺のやうに鈍根な、俺のやうに迷執の多い人間は他にあるまいと思はれるほど、俺は惑つて、困つて、ひつかゝつて、進み兼てゐる。併し俺の生活にも凝集する時期と發散する時期と、關門に向つて突進する時期と少しく此關門の通過を意識して眼界の稍開けた事を感ずる時期との交替はないことはない。併し悲しい哉鈍根の身には、打開の次に幾許もなく弛緩の時期が襲來する。從來鬱積し集中して來た心熱が、心身の小康と共に散漫に流れて、俺は暫く自分の生涯を貫く連續の絲を見失ふ事を感ずる。此間の空しさと淋しさの感情は比ぶ可きものもない程である。俺は此淋しさに驅られて再び魂を凝集するの努力に向つて行く。さうして俺の心は徐々として――眞に徐々としてその「張り」を恢復する。

俺は今日、自分の生涯に於ける連續と變化とを握りなほすために、過去に於ける俺の思想生活を思ひ返して見た。俺は俺の思想生活には、變化せざる多くの部分がある事を見た。連續して發展して來たと云ふよりも、寧ろその儘の姿に於いて俺の現在に殘存してゐる多くの思想を見た。俺は又久しく忘れられてゐた思想と問題とが新しい機縁に觸れて再び復活し、かくて隱現しながら俺の生涯を貫き縫つてゐる事を見た。併し俺は又俺の生活が徐々として開展し、俺の生活中心が遞次に移動してゐることをも亦認めざるを得なかつた。俺は現在の立脚地を明かにするために、暫く過去を囘顧しなければならない。

Chapter 6 of 60
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