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可愛い山
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可愛い山
石川欣一
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번역 Pagera AI
원문 Public Domain
Chapter 10 of 43

たらの芽

信州から「たらの芽」を送って来た。「うど」に似ている。「うど」と同じように葉のさきを取り、あっさりとゆでて食った。本当は胡桃あえがうまいのだが、県外移出禁止とかで手に入らず、胡麻味噌にして食った。

「たらのき」はこの近くにも生えている。根元から上まで太さに変化なく、枝などは出さずに幹一面長い針をつけた馬鹿みたいな木だ。春になると頂上に芽を出す。その芽をつけ根から綺麗に切りとったものが「たらの芽」である。

面白半分に植物の本を調べたら、これは山野に自生する亜喬木で五加科に属するとある。五加科とは何と読むのかと思って、同じ仲間の植物二、三について読んでいると、五加というのがあり、「うこぎ」とある。八ツ手なども同じ仲間である。

「たらのき」は馬鹿みたいな木だが、ラテン名はアラリア・シネンシスで、ちょっと優美な感がする。別名が「うどもどき」。これは明瞭に芽の味と形から来ているのだろう。

もう一つの異名はイカラポカラという。これは植物の本には書いてない。かつて仙台にいた時、早春郊外を散歩していたら、一緒に行った男の子が「これはイカラポカラという」と教えてくれた。長いトゲがやたらに出ているのが如何にもイカラポカラという感じで、面白いことをいうものだなと思った。

「近く香味とうとぶきも送ります」と、手紙に書いてあった。香味は当字で本当は「こごみ」だろうという。「ぜんまい」の大きなようなもので多肉柔軟、田舎ではせいぜいおひたしだが、僕はホワイトソースであたたかいうちに食う。夏山でもよく味噌汁のみにするが、そのころは固くなってしまって、さきだけしか食えない。このごろのは根の近くまで食える。

「うとぶき」もいずれ何とかいう名があるのだろうが、うどの香と蕗の歯ざわりを一緒にしたような山菜である。

この「うとぶき」や「あざみ」は、うまく塩につけると一年中新しい緑の色をしている。信州式に後からついでくれるお茶のお茶受に、指でつまんで食うのはたのしいことだ。

山の食物に「あけび」の蔓がある。バスケットに編むような丈夫な奴はもちろん歯が立たぬが、出たばかりの若い蔓は松葉のような色でシャリシャリして、うまいとかまずいとかいうよりさきに、何よりも洒落ている。シャリシャリといえば花の咲く前の蕎麦の軸も、ちょっと赤味がかった美しさで、おひたしには持って来いである。

「またたび」の実も塩漬にするとオリーブに似て、もうすこし仙骨というか俳味というか、とにかく日本的な味がする。僕は上越地方へスキーをやりに行って一瓶買った。

薬屋で売っている「またたび」はこの実におできが出来たような物らしい。火をつけて隣近所の猫を集めたことがある。ところが驚いたことに塩漬の実を庭に投げ出すと、やはりどこからともなく猫が集って来て、狂態ともいうべき大騒ぎをやった。

これからは根曲竹の筍が美味になる。丁度いまごろ妙高山麓に旅をして、こいつはうまいとほめたら、何から何まで筍づくめの料理を出されて、のぼせたことがある。おまけに後から一俵も送ってくれたが、大半はむれてくさり、ズルズルになっていた。すべてこのようなものは少量を珍重するに限る。

「たらの芽」から思いついて、いろいろと山菜のことを書いている内に、山に行きたくなって来た。まったく梅雨前の山はいい。残雪は多く、きれいで、日は永く、鳥は盛んに鳴き、おまけに何やかや、食える植物がふんだんにある。秋の山もいいが、どうも悲しい気持がする。これに反して初夏の山はワーッと景気がいいのだ。青春の山という感じが満ちているのだ。

(「樫の芽」)

Chapter 10 of 43
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