Chapter 1 of 11
一月
うまし、かるた會に急ぐ若き胸は、駒下駄も撒水に辷る。戀の歌を想ふにつけ、夕暮の線路さへ丸木橋の心地やすらむ。松を鳴らす電車の風に、春着の袖を引合す急き心も風情なり。やがてぞ、内賑に門のひそめく輪飾の大玄關より、絹足袋を輕く高廊下を行く。館の奧なる夫人の、常さへ白鼈甲に眞珠を鏤めたる毛留して、鶴の膚に、孔雀の裝にのみ馴れたるが、この玉の春を、分けて、と思ふに、いかに、端近の茶の室に居迎ふる姿を見れば、櫛卷の薄化粧、縞銘仙の半襟つきに、引掛帶して、入らつしやい。眞鍮の茶釜の白鳥、出居の柱に行燈掛けて、燈紅く、おでん燗酒、甘酒もあり。
――どツちが好いと言ふんですか――
――知らない――