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緒言

今回の南半球の周遊は、二百九十七日間に五万七十五マイルを踏尽せし故、一日に百六十九マイルずつを急行したる割合なり。かかる電光的旅行なれば、精細の観察は到底望むべからず、ただ瞬息の間に余の眼窓に映じたる千態万状を日記体に書きつづりたるもの、すなわち本書なり。

余は元来無器用にして、写真術を知らず、スケッチはできず、余儀なく耳目に触れたる奇異の現象は、言文一致的三十一文字、または二十八言等にて写しおきたれば、本書中にその糞詩泥歌をもあわせて録し、もって読者の一笑を煩わすに至れり。

南半球の旅行中に、便船の都合にて英国を経由し、欧州を歴訪したれば、その紀行を本書中に加え、もって欧州最近の実況をも読者に紹介することとなせり。

本書刊行の目的は、わが同胞をして、今後ますます進んで南球の別天地に活動せしめんとする意にほかならず。今日の青年は「埋レ骨豈唯故郷地、南球到処有二青山一」(骨を埋めるのはなにも故郷の地だけとは限らない、南半球の地の至るところに骨を埋めることのできる青山はあるのだ)の気慨あるを要す。いやしくもこの気慨あるものは、自国を遊園とし、海外を工場とし、よろしく遠く天涯万里に向かって雄飛活躍せざるべからず。国運発展の道も、けだしここにあらんと信ず。

もしこの瑣々たる小紀行が、いくぶんたりともわが同胞の海外発展を資するを得ば、大幸これに過ぎざるなり。

明治四十五年二月十五日著者しるす

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