Chapter 1 of 25

1 マントにんぎょうのまき

きむらたけしくんは、しょうがっこうの二ねん生で、とうきょうのひろいおうちにすんでいました。

おとうさんは、あるかいしゃのしゃちょうさんです。

きむらたけしくんのおうちのちかくに、ふしぎなせいようかんがあって、そこにふしぎな人がすんでいました。

二かいだてのふるいせいようかんで、そのまわりは、木のいっぱいはえたにわでかこまれていました。

このふしぎないえのふしぎな人は、林さんという、四十ぐらいのおじさんでした。

おくさんも子どももなく、たったひとりで、そのひろいせいようかんにすんでいるのです。

きんじょの人たちは、このせいようかんをばけものやしきといっていました。また、そこにひとりですんでいる林さんを、まほうつかいとよんでいました。

ところが、きむらたけしくんのおとうさんは、このふしぎな人とだいのなかよしだったので、林さんは、たけしくんのおうちへよくあそびにきました。

おとうさんはたけしくんと、いもうとのしょうがっこう一ねん生のきみ子ちゃんに、よくこんなふうにいってきかせるのでした。

「林さんはかわりものだが、けっしてわるい人じゃない。たいへんちえがあるのだよ。そのちえで、いろいろふしぎなことをやってみせるので、まほうつかいのようにみえるだけなのさ」

たけしくんもきみ子ちゃんも、林さんとなかよしになっていました。

ある日のごご三じごろのことです。たけしくんときみ子ちゃんは、林さんのおうちのにわであそんでいました。たくさんの木にかこまれたひろいしばふにこしをおろして、林さんのおはなしをきいていたのです。

林さんはくろいふくをきて、大きなくろいネクタイをとんぼむすびにしていました。

ふちなしの四かくなめがねをかけ、ぴんとはねた口ひげと、三かくのあごひげがあります。いかにもせいようのまほうつかいみたいなかっこうです。

その林さんが、こんなことをいいだしました。

「きみたちに、おもしろいものをみせてあげようか。びっくりするようなものだよ。わたしは、むこうの木のしげみにかくれるからね。すると、あそこのしいの木のねもとから、小さいものがあらわれるのだ。よくみているんだよ」

そういって、林さんは、しいの木のむこうのしげみの中へはいっていきました。

たけしくんと、きみ子ちゃんは、むねをわくわくさせながら、そのしいの木の下を、じっとみつめていました。

あたりは、しいんとしずまりかえっています。はるのおてんきのよい日で、しばふには、日がてっています。でも、しいの木のへんからむこうは、木のはがしげっているので、すこしうすぐらいのです。

「おじさん、なにをみせてくれるんだろうね」

たけしくんがいいますと、きみ子ちゃんは、にいさんのかおをみつめながら、「あたし、こわいわ」と、いかにもきみわるそうにささやくのでした。

すると、そのときです。あの大きなしいの木のねもとから、なにか小さなものが、ちょこちょことはいだしてきたではありませんか。

むしでしょうか。いや、むしにしては、大きすぎます。

しかも、それは、はっているのではなくて、二本の足であるいているのです。

それは、たかさ二十センチぐらいの、おもちゃのにんげんなのです。

くろいふくをきて、くろいマントをはおり、くろいソフトをかぶっています。

かおは小さくてよくみえませんが、なんだか林さんのかおににているようです。

かわいらしい四かくなめがねがちかちかひかり、三かくのあごひげがはえています。

そのおもちゃのにんげんが、まるでほんとうのにんげんのように、てくてくあるいているのです。

きっと、ぜんまいじかけであるくようになっているのでしょうが、それにしても、なんてじょうずにあるくのでしょう。

その小さなにんげんは、しいの木のとなりの大きな木にかくれてしまいました。

たけしくんときみ子ちゃんは、いまにあの木のうしろをとおりすぎて、またあらわれるだろうとまっていました。

やがてあらわれました。しかし、これはどうでしょう。あのにんぎょうが、たかさ四十センチほどに、大きくなっているではありませんか。

木のうしろをとおるあいだに、せのたかさがばいになってしまったのです。

「わぁ、ふしぎだ。おじさんは、やっぱりまほうつかいだねえ。おじさん……、おじさん……」

たけしくんは、そういって、しげみのうしろにいる林さんによびかけましたが、林さんは、どこかへいってしまったのか、しいんとしずまりかえって、なんのこたえもないのです。

すると、ばいの大きさになったにんぎょうは、二メートルほどあるいて、そのつぎの木のみきのむこうがわにかくれました。

まもなく、そこをとおりすぎてあらわれたにんぎょうをみますと、こんどは、一メートルもあるような大きさにかわっていました。

きみ子ちゃんとそんなにちがわないぐらいの大きさです。

たけしくんときみ子ちゃんは、びっくりしてかおをみあわせました。いよいよきみがわるくなってきたからです。

一メートルになったにんぎょうは、くろいマントをこうもりのようにひらひらさせて、木のみきをぐるっとまわり、もとのほうへもどってきました。

そして、さいしょのしいの木のみきにかくれたかとおもうと、つぎにそこからあらわれたのは、なんとおとなの大きさのにんぎょうだったではありませんか。

いや、にんぎょうではなくて、ほんとうのにんげんだったのです。

「わははははは……。どうだ、おどろいたかい。わしだよ。おじさんだよ。

おじさんはね。二十センチぐらいの小人にもなれるんだよ。

そして、いまのように、みるまに大きくなって、もとのすがたにもどれるのだよ」

ああ、なんというふしぎでしょう。それでは、さっきの小さなすがたも、にんぎょうではなくて、林さんだったのでしょうか。

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