Chapter 1 of 61
龍之介先生
龍之介先生の顏――岡本一平が畫いた似顏は、首相加藤友三郎とちやんぽんだ。
小説の事はいはずもがな、支那で六圓に買つてきた古着を、坪何兩といふ品と泉鏡花に思込ませた人だ。(坪トハ錦繍、古渡リ更紗ナドニ、一尺四方、又ハ一寸四方ナルヲイフ)
不思議によく猿股を裏がへしに着けてゐる。
顏を寫す時、西洋の文人、自分の一家一族の人の寫眞に至るまでどつさりみせて、やつぱり立派に畫いて呉れと言つた。
常常、君、女子と小人はなるたけ遠ざける方がいいよ、と言つてゐる。
又、僕かあ、君、いつなんどきどういふ羽目で妻子を拾てないともかぎらないが、やつぱり仕舞にやしつぽを卷いて、すごすごおれが惡るかつたから勘辨して呉れつて女房のところに、しつぽをふつて歸つてくるなあ、と高言してゐる。
知らないうちに、横山大觀に自分の弟子になれと口説かれてゐた。
君、僕かあ十六歳の頃まで燐寸をする事が出來なかつたものだから、僕の方の中學は三年から發火演習があつて鐵砲を擔がせるんだぜ、(その時は弱つたらうな、)否、僕かあ何時も小隊長だつたから洋刀を持つてゐたんだが、大體僕は利口だからそれとなく何時も部下に火をつけさせてゐたんだよ。
右足脱疽で私が二度目に踝から切られる時の立會人――骨を挽切る音の綺麗さや、たくさんの血管を抑へたつららの樣に垂れたピンセットが一つ落ちて音をたてた事や、その血管が内に這入つて如何なつたか心配だつた事を、みんな話してくれた人だ。