Chapter 1 of 1

Chapter 1

あるところに、かわいそうな子どもがありました。かね子さんといって、うまれたときからよく目が見えなかったので、お母さんは、たいそうふびんに思っていらっしゃいました。

あちらにいい目のおいしゃさまがあるといえば、そこへつれていき、またどこそこにいい目のおいしゃさまがあると聞けば、そこへつれていきました。

けれど、どのおいしゃさまも、はっきりなおるとうけあった人はなかったのです。

「お母さん、わたしは目が見えなくても次郎さんがあそびにきてくださるから、ちっともかなしくはありません。」と、かね子さんはいいました。

「ほんとうに次郎さんは、やさしいいいお子さんですね。あんなにしんせつなお子さんはありませんよ。」と、お母さんもおよろこびになりました。

毎日、次郎さんはあそびにきてくれました。

「かね子さん、ぼく、おもしろいご本をもってきたのだよ。いま読んであげるからきいていてごらん。」

そういって次郎さんは、浦島太郎のお話を読んできかせました。

「かね子さん、おもしろい?」

「おもしろいわ、太郎は助けたかめをにがしてやったのでしょう。」

「そうすると、かめがおれいにやってきたのだよ。どうかわたしの背中にのってください、龍宮におつれ申しますといったのさ。」といって、次郎さんはご本のきれいな絵をながめていました。

「やあ、きれいだな。青や赤やでぬったご門があって、龍宮ってこんなきれいなところかなあ。」と、次郎さんは感心していました。

けれど、かね子さんには、その絵がわかりませんでした。

「次郎さん、どんなきれいな絵がかいてあるの?」と、なみだぐんでききました。

次郎さんは、かね子さんが目の見えないのに気がつくと、

「ああ、悪かった。うらやましがらせるようなことをいわなければよかった。」と、後悔をしました。

そして、どうしたらかね子さんの目がよくなるだろうと思いました。

「ねえ、かね子さん、泣くのはおよし。ぼく悪かった、かんにんしておくれ。」

「いいえ、次郎さんが悪いのではない。わたしの目はなおらないって、お母さんがおっしゃったので、かなしいのよ。」

「ぼく、どうかして見えるようにしてあげるからね。」と、次郎さんがいいました。

浦島太郎は、かめを助けたために龍宮へいって、おとひめさまにであったのだから、ぼくもこれから殺生をしないことにしようと、次郎さんは思いました。

「あっちからきたのは勇ちゃんらしいな。」

次郎さんは、往来に立ちどまって見ていました。やはり勇ちゃんでした。もちぼうを持ち、片手にとんぼのかごをぶらさげていました。

「勇ちゃん、とんぼが取れた?」と、次郎さんはききました。

「むぎわらとんぼが二匹と、やんまを取ったよ。」と、勇ちゃんは、とくいになって答えました。

「やんまを取ったの?」

次郎さんは、うらやましそうにかごの中をのぞくと、大きなやんまがいました。

「どこでやんまを取ったの?」

「あっちの梅の木にとまっていたのだよ。」

黒い目のくるくるした、黄色なすじのある、いいやんまでした。

次郎さんはふところから、浦島太郎のご本をだして、

「勇ちゃんは、こんな絵本を見たことがある?」と、ききました。

勇ちゃんは、きれいな本だと思いました。

「見たことがない。おもしろいかい?」

「これはおもしろいよ。見せてあげるから、勇ちゃん、とんぼをみんなにがしておやりよ。」と、次郎さんがいいました。勇ちゃんはびっくりして、

「いやだ。ぼく、せっかく取ったのだもの。」と、目をみはりました。

次郎さんは、どうしたらとんぼを助けることができるかと考えました。

「君は、浦島太郎が龍宮へいった話を知っている?」

「知っているよ。だけど、あれはおとぎばなしだろう。」

「うそのことは、本に書いてあるわけはないよ。これは浦島太郎の絵本だよ。これと、とんぼととりかえっこをしようよ。」と、次郎さんがたのみました。

「この大きなやんまは、おしいな。」勇ちゃんはやんまをながめました。

「勇ちゃん、いいだろう?」

「じゃ、とりかえっこしてあげよう。」

二人は、絵本ととんぼととりかえっこをしました。次郎さんはとんぼを持って、はらっぱの方へ走っていきました。

「さあ、みんなにげていけ。もうけっして子どもたちにつかまるなよ。」と、浦島太郎がかめをにがしたときのように、いいました。

次郎さんは、かね子さんに、じゅず玉を取ってあげようと思って、原っぱへ三りん車にのってやってくると、やはり三りん車にのった子が、一人であそんでいました。

「君は、どこの子かい?」と、次郎さんがききました。

「ぼくの町はこっちだよ。そうして、ぼくの名は、とんぼこぞうというのだよ。」と、その子はいいました。

「おもしろい名だね。」

「君とぼくと、三りん車の競争をしようよ。」と、とんぼこぞうがいいました。

「ぼくは、じゅず玉を取ろうと思って、ここへきたのだよ。」と、次郎さんは答えました。

すると、とんぼこぞうは、

「じゅず玉は女の子の持つものだぜ。」といって、わらいました。

「そうさ。ぼくは、かね子さんという目のわるい、かわいそうな女の子のために取りにきたのだよ。」と、次郎さんがいうと

「目がわるいの? そんなら、いいお薬があるよ。」と、とんぼこぞうがいいました。

「ある? どこに?」

「ぼくの町にいっしょにおいでよ。」と、とんぼこぞうが先になって走りました。

次郎さんはその町がどこかと思って、つづいて走りました。赤い夕やけの空を見ながら、二人がいくと、きれいなきれいな町にきました。たくさん、ちょうちんがついていて、にぎやかでした。

「おまつりがあるの?」と、次郎さんがききました。

「おはぐろとんぼのお姉さんが、およめにいくのだよ。」と、とんぼこぞうがいいました。

「ここは、とんぼの町なの?」と、次郎さんはおどろきました。

「とんぼの町だよ。めったに人のこられぬところさ。君はいい子だから、ぼくがつれてきたのだよ。」と、とんぼこぞうがいいました。

「どこに目薬があるの?」

「あすこ……。」と、とんぼこぞうが、ゆびさしました。

いってみると、むらさき色のびんがならんでいました。

「よくきくかい?」と、次郎さんがきくと

「とんぼの目をごらんよ。みんないい目をしているだろう。」と、とんぼこぞうが答えました。

「どうぞこの町を忘れませぬように。」と、次郎さんは、いくたびも神さまにねがいました。

そうして、かえりには、しんせつなとんぼこぞうに、原っぱまでおくってもらいました。

●図書カード

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