Chapter 1 of 1

Chapter 1

「お姉ちゃん、お姉ちゃん、たいへん。」と、まくらをならべている正ちゃんが、夜中にお姉さんを起こしました。よく眠入っていたお姉さんは、何事かと思って、おどろいて目をさまして、

「どうしたの、正ちゃん。」と、いまにも立ち上がろうとなさいました。

「あれ、たいへんじゃないか。」と、正ちゃんは、大きな目をあけて、耳をすましていました。

「なにさ、なにがたいへんなの。」

「アオン、アオンといっているだろう。あれは、黒いどらねこだよ。そして、ニャア、ニャアといっているのは、三毛なんだよ。」

正ちゃんは、ねこのけんかで目をさましたのでした。小さい三毛が、大きな黒ねこにいじめられているので、たいへんだと思ったのです。

「ねこのけんかでしょう。そんなことで、人を起こすものがありますか、びっくりするじゃありませんか。」と、お姉さんは、正ちゃんをしかりました。正ちゃんは、お床の中で、しばらく黒ねこと三毛ねこのけんかをきいていましたが、我慢がしきれなくなって、

「しっ!」と、どなりました。

そのうちに、ねこのなき声がしなくなりました。

「わるいどらねこだな。こんど見つけたら、石を投げてやるから。」

そういって、正ちゃんは、眠りましたが、お姉さんは、なかなか眠れませんでした。明くる日の朝、みんなが、テーブルの前にすわったとき、

「あんなことで、起こすものじゃなくてよ。」と、正ちゃんは、お姉さんにしかられました。ところが、その日の午後でありました。お姉さんが、学校から帰ってくると、往来で遊んでいた正ちゃんが、遠くから、見つけてかけてきて、

「お姉さん!」と、呼びました。これを見た、お姉さんは、思わずにっこりなさいました。正ちゃんは、やっと、お姉さんに近づくと、

「お姉ちゃん、おしるこがあるよ。だけど、たった、一杯!」と、大きな声で、いいました。歩いている人が、これをきいて、笑ってゆきました。お姉ねえさんも、きまりが悪くなりました。お家へ帰ると、お姉さんは、

「なぜ、あんなみっともないことをいうの、人が笑ってゆくじゃありませんか。」といって、正ちゃんをしかりました。

「ほんとうだから、いいだろう。僕、おしるこたべたいな。」と、正ちゃんは、いいました。

「いいえ、もう、あんたはいけません。」と、お母さんがおっしゃいました。

正ちゃんは、外へ遊びにゆきました。それから、だいぶ時間がたちました。そのうちに、日が陰って、風が寒くなりました。

「さっき、正ちゃんは、セーターをぬいだのよ。寒くなったから、呼んできて、着せておやり、かぜをひくといけない。」

こう、お母さんが、おっしゃったので、お姉さんは、正ちゃんをさがしにゆきました。しかし、どこにも、その姿が、見つかりませんでした。

「いませんのよ。」と、お姉さんは、帰ってきました。

「赤土の原っぱにも。」

「ええ、原っぱにも、お宮の境内にも。」

正ちゃんは、よく、その原っぱや、お宮の境内で、お友だちといろいろのことをして遊ぶのです。

「どこへいったでしょう。こんなにおそくまで遊んでいることは、ないのに。」と、お母さんはおっしゃいました。

「私、心配だから、もう一度見てくるわ。」と、お姉さんは、目に涙をためて、お家を出ました。昨日から、いろんなことで、正ちゃんをしかったのを思い出して、悪いことをしたと後悔しました。なぜなら、それは、正ちゃんが、無邪気であったからです。

「ねこのけんかも、おしるこのことも。」と、お姉さんは、歩きながら、考えました。そのとき、あちらから、子供たちの声がして、わあわあいって、きかかる中に、正ちゃんもいたのです。お姉さんは、やっと安心して、そのそばにまいりました。

「正ちゃん、どこへいっていたの?」と、お姉さんは、ききました。

「本屋の二階で、学校ごっこをやっていたのさ、僕は、算術が七点で、読み方が八点で、三番だ。えらいだろう。」と、正ちゃんは、いいました。

「だめよ。もっと、いいお点をとらなけりゃ。」と、お姉さんは、しかってから、はっとして、いつも弟に小言をいう悪いくせに気がついて顔を赤くしました。

●図書カード

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