Chapter 1 of 4

この少年は、名を知られなかった。私は仮にケーと名づけておきます。

ケーがこの世界を旅行したことがありました。ある日、彼は不思議な町にきました。この町は「眠い町」という名がついておりました。見ると、なんとなく活気がない。また音ひとつ聞こえてこない寂然とした町であります。また建物といっては、いずれも古びていて、壊れたところも修繕するではなく、烟ひとつ上がっているのが見えません。それは工場などがひとつもないからでありました。

町はだらだらとして、平地の上に横たわっているばかりであります。しかるに、どうしてこの町を「眠い町」というかといいますと、だれでもこの町を通ったものは、不思議なことには、しぜんと体が疲れてきて眠くなるからでありました。それで日に幾人となくこの町を通る旅人が、みなこの町にきかかると、急に体に疲れを覚えて眠くなりますので、町はずれの木かげの下や、もしくは町の中にある石の上に腰を下ろして、しばらく休もうといたしまするうちに、まるで深い深い穴の中にでも引き込まれるように眠くなって、つい知らず知らず眠ってしまいます。

ようやく目がさめた時分には、もういつしか日が暮れかかっているので、驚いて起ち上がって道を急ぐのでありました。この話がだれからだれに伝わるとなく広がって、旅する人々はこの町を通ることをおそれました。そして、わざわざこの町を通ることを避けて、ほかのほうを遠まわりをしてゆくものもありました。

ケーは、人々のおそれるこの「眠い町」が見たかったのです。人の恐ろしがる町へいってみたいものだ。己ばかりはけっして眠くなったとて、我慢をして眠りはしないと心に決めて、好奇心の誘うままに、その「眠い町」の方を指して歩いてきました。

Chapter 1 of 4