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ホミの自宅から小学校まで、歩いて七、八分だった。彼女が三年生、四年生、そして五年生だった頃を中心に、通学途中でよその家の前に立ちどまり、じっとその家を見ることを、彼女は頻繁におこなっていた。通学路は住宅地のなかだ。歩いていく道の両側には、なんの変わりばえもしない民家が、平凡に連続していた。特定の一軒ではなく、ふと気になった一軒の前に立ちどまり、飽きることなくいつまでも、彼女はその家を眺めて過ごした。
そのようなときのホミを、母親は、一度だけ目撃したことがあった。立ちどまったホミがじっと一軒の家を見ている道を、偶然に母親がとおりかかったからだ。その家を、母親は、ホミの友だちの家だと思った。友だちが家から出てくるのを娘は待っているのだと、母親は思った。
娘のかたわらに立ちどまってしばらく待った母親は、
「来ないわね。どうしたのかしら」
と言った。
「どうもしてないよ」
ホミが答えた。
「呼んでらっしゃいよ」
「誰を?」
「友だち」
「誰の友だち?」
「友だちを待ってるのじゃないの?」
その民家を示して、母親はホミにきいた。ホミは首を振った。
「いいえ」
「まあ」
「見てたの」
「なにを?」
「このお家を」
「なぜ?」
「この家にも私のような女のこが住んでるのかなあと思って」
「住んでるのかしら」
「知らない」
「お家を見てたの?」
「見て想像してたの。私とおなじような女のこが住んでるのを想像してたら、その女のこと私がどんどんひとつに重なって、私はこの家の子供になってしまった」
まだ小学生の娘を、母親は不思議そうに見つめた。そして、
「お家へ帰りましょう」
と言った。
「どこのお家?」
ホミはききかえした。
「ホミのお家」
「私はここ」
立ちどまって見ていたその民家を、ホミは示した。
「ここはよそのお家でしょう」
「女のこがいるの」
「いませんよ」
「いる」
「わからないわ、そんなこと」
「私とおんなじ女のこ」
「ホミ。帰りましょう。ママもちょうどお家へ帰るとこだったの。よかったわ、会えて。予定より遅くなったから、急いでたのよ。学校は早く終わったの?」
母親の質問にホミは小さく一度うなずいた。
「帰りましょう」
母親は娘に片手をさしのべた。ホミはその手を取った。母親は歩き始め、ホミもともに歩いた。歩き始めてすぐに、ホミはその家をふりかえった。
「私がふたつに分かれた」
と、ホミは母親に言った。
「ひとりはあの家にいて、もうひとりはここにいます」
「ホミは全部ここよ」
ホミの小さな手を握っている自分の手に、母親は力をこめなおした。しばらくそのまま歩いてから、
「痛いよ、ママ」
と、ホミは言った。手にこめた力を、母親は少しだけゆるめた。