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번역 Pagera AI
원문 Public Domain
Chapter 5 of 11

5

こういうふうにして毎日グレゴールは食事を与えられた。一回は朝、両親と女中とがまだ眠っているときで、二回目はみんなの昼食が終ったあとだ。というのは、食事後、両親はしばらく昼寝をし、女中は妹から何か用事を言いつけられて使いに出される。たしかにみんなはグレゴールを飢え死させようとはしなかったが、おそらく彼の食事についてはただ妹の口から伝え聞くという以上の我慢はできなかったのだろう。またきっと妹も、なにしろほんとうに両親は十分苦しんでいるのだから、おそらくほんのわずかな悲しみだけであってもはぶいてやろうとしているのだろう。

あの最初の朝、どんな口実によって医者と鍵屋とを家から追い返したのか、グレゴールは全然知ることができなかった。というのは、彼のいうことは相手には聞き取れないので、だれ一人として、そして妹までも、彼のほうでは他人のいうことがわかる、とは思わなかったのだ。そこで、妹が自分の部屋にいるときにも、ただときどき妹が溜息をもらしたり、聖人たちの名前を唱えるのを聞くだけで満足しなければならなかった。のちになって妹が少しはすべてのことに慣れるようになったときにはじめて、――完全に慣れるというようなことはむろんけっして問題とはならなかった――グレゴールは親しさをこめた言葉とか、あるいはそう解釈される言葉とかをときどき小耳にはさむことができた。グレゴールが食事をさかんに片づけたときには、「ああ、きょうはおいしかったのね」と、妹は言い、しだいに数しげくくり返されるようになったそれと反対に手をつけていない場合には、ほとんど悲しげにこういうのがつねだった。

「またみんな手をつけないであるわ」

ところで、グレゴールは直接にはニュースを聞くことができなかったけれども、隣室の話し声をいろいろ聞き取るのだった。人声が聞こえると、彼はすぐそれに近いドアのところへ急いでいき、身体全体をドアに圧しつける。ことにはじめのうちは、たといただこそこそ話にしろ、何か彼についてのことでないような話はなかった。二日のあいだ、三度三度の食事に、どうしたらいいのだろう、という相談をやっているのが聞かれた。ところで、食事と食事とのあいだの時間にも、同じ話題が語られるのだった。というのは、だれ一人としてひとりだけ留守をしようとしなかったし、またどんなことがあっても住居をすっかり空にすることはできなかったので、いつでも家には少なくとも家族のうちの二人が残っているのだ。女中も最初の日に――女中がこのできごとについて何を知っているのか、またどのくらい知っているのかは、あまり明らかではなかったが――すぐにひまをくれるようにと膝をついて母親に頼み、その十五分後に家を出ていくときには、涙ながらにひまを出してもらったことの礼をいった。まるでこの家で示してもらった最大の恩恵だとでもいうような調子だった。そして、だれも彼女に求めたわけでもないのに、ほんの少しでも人にはもらしませんから、などとひどく本気で誓うのだった。

女中がひまを取ったので、今では妹が母親といっしょに料理もしなければならなかった。とはいっても、それはたいして骨が折れなかった。なにしろほとんど何も食べなかったのだ。グレゴールはくり返し聞いたのだが、だれかがほかの者に向って食べるようにとうながしてもむだで、出てくる返事といえばただ「いや、たくさん」とかいうような言葉だけにきまっていた。酒類もおそらく全然飲まないようだった。しょっちゅう妹は父親に、ビールを飲みたくないかとたずね、自分で取りにいくから、と心から申し出るのだが、それでも父親が黙っていると、父が世間態をはばかって心配している気持を取り除こうとして、門番のおかみさんにビールを取りにいってもらってもいいのだ、というのだった。ところが父親は最後に大きな声で「いらない」と、いう。そして、それでもう二度とビールのことは話されなかった。

最初の日のうちに、父親は早くも母親と妹とに向って財産状態とこれからの見通しとについてすっかり話して聞かせた。ときどきテーブルから立ち上がって、五年前に自分の店が破産したときに救い出した小さな金庫から何か書きつけや帳簿をもってくるのだった。手のこんだ鍵を開け、つぎに探しているものを取り出したあとで鍵を閉める音が聞こえてきた。父親のそのときの説明は、一面では、グレゴールが監禁生活をするようになって以来はじめてうれしく思ったことだった。グレゴールはそれまで、あの店から父親の手に残されたものは全然ないのだ、と考えていた。少なくとも父親はグレゴールに対してその反対のことは全然いわなかった。もっともグレゴールもそのことについて父親にたずねたことはなかったのではあった。グレゴールがそのころ気を使っていたことは、家族全員を完全な絶望へ追いこんだ商売上の不幸をできるだけ早く家族の者たちに忘れさせるために全力をつくすということだった。そこであの当時彼は特別に熱心に働き始め、ほとんど一夜にしてつまらぬ店員から旅廻りのセールスマンとなった。セールスマンにはむろん金もうけのチャンスがいろいろあり、仕事の成果はすぐさま歩合の形で現金に変わり、それを家にもち帰って、驚きよろこぶ家族の眼の前のテーブルの上にならべて見せることができた。あれはすばらしい時期だった。グレゴールはあとになってからも、家族全体の経費をまかなうことができ、また、事実まかなっただけの金をもうけはしたが、あのはじめのころのすばらしい時期は、少なくとも、あのころの輝かしさで二度くり返されることはなかった。家人もグレゴールもそのことに慣れ、家人は感謝して金を受け取り、彼もよろこんで金を出すのだったが、特別な気持の温かさというものはもう起こらなかった。ただ妹だけはグレゴールに対してまだ近い関係をもちつづけていた。グレゴールとはちがって音楽が大好きで、感動的なほどにヴァイオリンを弾くことができる妹を、来年になったら音楽学校へ入れてやろう、というのが彼のひそかな計画だった。そうなるとひどく金がかかるが、そんなことは考慮しないし、またその金もなんとかしてつくることができるだろう。グレゴールが町に帰ってきてちょっと滞在するあいだには、しょっちゅう妹との会話に音楽学校の話が出てくるのだったが、いつでもただ美しい夢物語にすぎず、その実現は考えられなかった。そして、両親もけっしてこんな無邪気な話を聞くのをよろこびはしなかった。だが、グレゴールはきわめてはっきりとそのことを考えていたのであり、クリスマスの前夜にはそのことをおごそかに宣言するつもりだった。

ドアにへばりついて身体をまっすぐに起こし、聞き耳を立てているあいだにも、今の自分の状態にはまったく無益なこうした考えが、彼の頭を通り過ぎるのだった。ときどき、全身の疲れのためにもう全然聞いていることができなくなり、うっかりして頭をドアにぶつけ、すぐにまたきちんと立てるのだった。というのは、そんなふうにして彼が立てるどんな小さな物音でも、隣室に聞こえ、みんなの口をつぐませてしまうのだ。「また何をやっているんだろう」などと、しばらくして父親がいう。どうもドアのほうに向きなおっているらしい。それからやっと、中断された会話がふたたびだんだんと始められていく。

グレゴールは十分に聞き取ったのだが――というのは、父親は説明をする場合に何度もくり返すのがつねだった。その理由は一つには彼自身がすでに長いあいだこうしたことに気を使わなくなっていたからであり、もう一つには母親が一回聞いただけでは万事をすぐのみこめなかったからだ――、すべての不幸にもかかわらず、なるほどまったくわずかばかりのものではあるけれども昔の財産がまだ残っていて、手をつけないでおいた利子もそのあいだに少しばかり増えた、ということであった。その上、グレゴールが毎月家に入れていた金も――彼は自分ではほんの一グルデンか二グルデンしか取らなかった――すっかり費われてしまったわけではなく、貯えられてちょっとした金額になっていた。グレゴールはドアの背後で熱心にうなずき、この思いがけなかった用心と倹約とをよろこんだ。ほんとうはこの余分な金で社長に対する父親の負債をもっと減らすことができ、この地位から離れることができる日もずっと近くなったことだろうが、今では父親の計らいは疑いもなくいっそうよかったわけだ。

ところで、こんな金では家族の者が利息で生活していけるなどというのにはまったくたりない。おそらく家族を一年か、せいぜいのところ二年ぐらい支えていくのに十分なだけだろう。それ以上のものではなかった。つまり、ほんとうは手をつけてはならない、そしてまさかのときの用意に取っておかなければならない程度の金額にすぎなかった。生活費はかせがなければならない。ところで、父親は健康だがなにしろ老人で、もう五年間も全然仕事をせず、いずれにしてもあまり働けるという自信はない。骨は折れたが成果のあがらなかった生涯の最初の休暇であったこの五年のあいだに、すっかりふとってしまって、そのために身体も自由に動かなくなっていた。そこで母親が働かなければならないのだろうが、これが喘息もちで、家のなかを歩くのにさえ骨が折れる始末であって、一日おきに呼吸困難に陥り、開いた窓の前のソファの上で過ごさなければならない。すると妹がかせがなければならないというわけだが、これはまだ十七歳の子供であり、これまでの生活ではひどく恵まれて育ってきたのだった。きれいな服を着て、たっぷりと眠り、家事の手伝いをし、ささやかな気ばらしにときどき加わり、何よりもヴァイオリンを弾く、という生活のしかただった。どうしてこんな妹がかせぐことができるだろうか。家族の話が金をかせがなければならないというこのことになると、はじめのうちはグレゴールはいつもドアを離れて、ドアのそばにある冷たい革のソファに身を投げるのだった。というのは、恥辱と悲しみのあまり身体がかっと熱くなるのだった。

しばしば彼はそのソファの上で長い夜をあかし、一瞬も眠らず、ただ何時間でも革をむしっているのだった。あるいは、大変な労苦もいとわず、椅子を一つ窓ぎわへ押していき、それから窓の手すりにはい上がって、椅子で身体を支えたまま窓によりかかっていた。以前窓からながめているときに感じた解放されるような気持でも思い出しているらしかった。というのは、実際、少し離れた事物も一日一日とだんだんぼんやり見えるようになっていっていた。以前はしょっちゅう見えていまいましくてたまらなかった向う側の病院も、もう全然見えなくなっていた。静かな、しかしまったく都会的であるシャルロッテ街に自分が住んでいるのだということをよく知っていなかったならば、彼の窓から見えるのは、灰色の空と灰色の大地とが見わけられないくらいにつながっている荒野なのだ、と思いかねない有様だった。注意深い妹は二度だけ椅子が窓ぎわにあるのに気づいたにちがいなかったが、それからは部屋の掃除をしたあとでいつでも椅子をきちんと窓べに押してやり、おまけにそのときからは内側の窓も開け放しておいた。

もしグレゴールが妹と話すことができ、彼女が自分のためにしなければならないこうしたすべてのことに対して礼をいうことができるのであったら、彼女の奉仕をもっと気軽に受けることができただろう。ところが、彼はそれが苦しくてたまらなかった。妹はむろん、いっさいのことのつらい思いをぬぐい去ろうと努めていたし、時がたつにつれてむろんだんだんそれがうまくいくようになったのだが、グレゴールも時間がたつとともにいっさいをはじめのころよりもずっと正確に見て取るようになった。妹が部屋へ足を踏み入れるだけで、彼には恐ろしくてならなかった。ふだんはグレゴールの部屋をだれにも見せまいと気をくばっているのだが、部屋に入ってくるやいなや、ドアを閉める手間さえかけようとせず、まっすぐに窓へと走りよって、まるで息がつまりそうだといわんばかりの恰好であわただしく両手で窓を開き、まだいくら寒くてもしばらく窓ぎわに立ったままでいて、深呼吸する。こうやって走ってさわがしい音を立てることで、グレゴールを日に二度びっくりさせるのだ。そのあいだじゅう、彼はソファの下でふるえていた。だが彼にはよくわかるのだが、もしグレゴールがいる部屋で窓を閉め切っていることができるものならば、きっとこんなことはやりたくはないのだ。

Chapter 5 of 11
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