Chapter 1 of 1

Chapter 1

音なき秋の空をながめて、

木の葉は淡き吐息をもらし、

色みな、悲しきメロディなり。

時のまに/\泣きすぐる風に、

調べはいたく、狂ひわなゝき、

自然の胸の痛みは、更に深し。

黄ばめる木の葉は、翼をふるひ、

暗をもりたる、谷をみおろし、

渦まきながら、果ては消えゆく。

こゝちよき南の朝、

空は薔薇色の絹をのべ、

いろ鳥の歌は、若かき恋のごとく、

珠の響きをもてふるへり。

眼ざめし軟風、払手柑の花咲く

泉のほとりに、たわふれば、

かぐわしき名香、四方に散じ、

草葉にむすぶ露も、はら/\と散る。

あわれ、ユウカリ樹の下に、

たをやの髪を手にまきて、

若かき恋の別れを告げし、曙も、

今は、浮刻の如く、空にうつらふ。

なぎたる海の如き小夜なか。

香ひよき酒にさめて、

物すごき森の奥に、

極楽鳥の声をきくとき、

心は新らしき悲しみの眼をひらく。

南極星のなゝめに傾むき、

椰子の葉影にふるゝ頃まで、

色あせし唇に、「かの日の歌」をなせど、

たへなる音もなく、息は糸のごとく衰ろへ、

果敢なき涙して、喜びは吾れをさかりゆく。

涙ぐみたる植民地の空。

あぢきなき労働を終へて、

榕樹の影に息ふ黄昏よ!

息ふかき鐘の音は、愁人の声を偲ばせ、

収穫しさゝやかな穂束をながめて、

………かたパンを食ふに似たる生活を思ふ。

●図書カード

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