Chapter 1 of 29
一
夜にはあらじ
霧ふかき昼なりき
町は霧にて埋もれたり
霧町に降り
降りたる霧町を埋めたり
日はあれど
月より朧ろにて
家あれど
墓より陰影的なりき
葬礼の列なりや
そこに、ここに、行く者は?
あらじ
歩める人の群なりき
昼の鐘遠くきこえ
夜の鐘に似たれども
ただ似たるなり
霧ふかき町なれば
鐘の音迷えるなり
玩具屋ありき
会堂ありき
塔ありき
円天上の大学ありき
霧の奥にありき
堀割よ
なぜに短艇を浮かべざるや?
いないな短艇浮かび、処女乗り、少年笛ふけど、
霧ふかければ、見えざるなりき
貴族の家に温室ありき
アラセイト――
蘭
アマリリス
レザ
白鳥花
フリジヤ
シネンセス
蟹手草
キク
スイートピー
霧の中の温室
温室の中の花
花の中の茶卓
茶卓に添える籐椅子
籐椅子によれる貴族
貴族により添える胸
乳房
唇
しかれども霧!
町々
露路
十字路
噴水
ベンチ
陰影にあらざるものはあらざりき
霧降る
放火――霧に咲く花!
姦淫――霧の誘惑!
ひと殺し――霧の秘密!
――町、霧に埋もれたり――
郵便脚夫は
霧のポストより
霧のごと果敢なき
恋文いだし
霧のごと弱き
乙女に与えき
乙女泣きける
霧
霧
霧
霧
かかる会話ありき
霧の中にて……
女「愛し給うや?」
男「………………」
霧
沈黙
男「愛し給うや?」
女「………………」
霧