Chapter 1 of 1

Chapter 1

むかしむかし、あるところにちっちゃな、かわいい女の子がおりました。その子は、ちょっと見ただけで、どんな人でもかわいくなってしまうような子でしたが、だれよりもいちばんかわいがっていたのは、この子のおばあさんでした。おばあさんは、この子の顔を見ると、なんでもやりたくなってしまって、いったいなにをやったらいいのか、わからなくなってしまうほどでした。

あるとき、おばあさんはこの子に、赤いビロードでかわいいずきんをこしらえてやりました。すると、それがまたこの子にとってもよくにあいましたので、それからは、もうほかのものはちっともかぶらなくなってしまいました。それで、この子は、みんなに「赤ずきんちゃん」「赤ずきんちゃん」とよばれるようになりました。

ある日、おかあさんが赤ずきんちゃんをよんで、いいました。

「赤ずきんちゃん、ちょっとおいで。ここにおかしがひとつと、ブドウ酒がひとびんあるでしょう。これをね、おばあさんのところへもっていってちょうだい。おばあさんは病気で、よわっていらっしゃるけれど、こういうものをあがると、きっと元気になるのよ。じゃ、暑くならないうちに、いってらっしゃい。それからね、そとへでたら、おぎょうぎよく歩いていくのよ。横道へかけだしていったりするんじゃありませんよ。そんなことをすれば、ころんで、びんをこわしてしまって、おばあさんにあげるものが、なんにもなくなってしまうからね。それから、おばあさんのおへやにはいったら、いちばんさきに、おはようございますって、あいさつするのをわすれちゃだめよ。そうして、はいるといっしょに、そこらじゅうをきょろきょろ見まわしたりするんじゃありませんよ。」

「だいじょうぶよ。」

と、赤ずきんちゃんはおかあさんにいって、約束のしるしに指きりをしました。

ところで、おばあさんのうちは、歩いて、村から半時間もかかる森のなかにありました。赤ずきんちゃんが森のなかへはいりますと、オオカミがひょっこりでてきました。でも、赤ずきんちゃんは、オオカミがわるいけだものだということをちっとも知りませんでした。ですから、べつにこわいとも思いませんでした。

「こんにちは、赤ずきんちゃん。」

と、オオカミがいいました。

「こんにちは、オオカミさん。」

「こんなにはやくから、どこへいくの。」

「おばあさんのとこよ。」

「まえかけの下にもっているのは、なあに。」

「おかしとブドウ酒。きのう、おうちで焼いたのよ。おばあさんが病気で、よわっているでしょう。これをあがると、からだに力がつくからよ。」

「おばあさんのおうちはどこなの、赤ずきんちゃん。」

「もっともっと森のおくで、まだ十五分ぐらいかかるわ。大きなカシの木が三本立っているその下に、おばあさんのおうちがあるのよ。まわりには、クルミの生け垣があるわ。あなた、知っているでしょう。」

と、赤ずきんちゃんはいいました。

オオカミは腹のなかで考えました。

(わかいやわらかそうな小むすめめ、こいつはあぶらがのってて、うまそうだ。ばあさんよりゃうまかろう。よし、なんとかくふうをして、両方ともごちそうになってやれ。)

そこで、オオカミは、しばらくのあいだ赤ずきんちゃんとならんで歩いていきましたが、やがて、

「赤ずきんちゃん。まあ、そこらじゅうにさいているきれいな花を見てごらんよ。きみは、なんだって、まわりをながめてみないんだい。ほら、小鳥があんなにかわいい声で歌をうたっているんだぜ。だけど、それもきみの耳にはまるではいらないみたいじゃないか。きみは、学校へでもいくように、まっすぐまえばかりむいて歩いているね。森のなかは、こんなにたのしいってのになあ。」

と、いいました。

いわれて、赤ずきんちゃんは目をあげてみました。すると、お日さまの光が木と木のあいだからもれてきて、あっちでもこっちでもダンスをしています。それから、あたりいちめんきれいなお花がいっぱいです。それを見て、赤ずきんちゃんは、

(おばあさんに、つんだばかりの花で花たばをこしらえて、もってってあげたら、きっとおよろこびになるわ。まだこんなにはやいんだから、だいじょうぶ、時間までにはいかれるわ。)

と、思いました。

そして、横道にそれて、いろんな花をさがしながら、森のおくへはいっていきました。そうして、花をひとつおるたびに、もっとさきへいったら、もっときれいな花があるような気がするのでした。

こうして、花から花をさがして歩いているうちに、だんだん森のおくへおくへとはいりこみました。

ところが、オオカミのほうは、そのあいだに、まっすぐおばあさんの家へかけていって、トントンと戸をたたきました。

「どなたですかね。」

「赤ずきんよ。おかしとブドウ酒をもってきたの。あけてちょうだい。」

「取っ手をおしておくれ。」

と、おばあさんが大きな声でいいました。

「おばあちゃんはね、からだがよわっていて、おきられないんだよ。」

オオカミが取っ手をおしますと、戸がいきおいよくあきました。オオカミはなんにもいわずに、いきなりおばあさんの寝床のところへいって、おばあさんをひと口にのみこんでしまいました。

それから、おばあさんの着物をきて、おばあさんのずきんをかぶって、おばあさんの寝床に横になって、寝床のまわりにあるカーテンをひいておきました。

いっぽう、赤ずきんちゃんは、あいかわらず花をさがして、かけまわっていました。そして、あつめるだけあつめて、これいじょうもう一本ももてなくなったとき、やっとおばあさんのことを思いだしました。そこで、いそいでおばあさんのところへいくことにしました。

赤ずきんちゃんが家のまえまできてみますと、おばあさんの家の戸があいています。それで、赤ずきんちゃんはへんだと思いながら、おへやにはいりました。すると、なんとなく、なかのようすがいつもとちがっているような気がします。赤ずきんちゃんは、

(あら、どうしたんでしょう。きょうは、なんだかきみがわるいわ。いつもなら、おばあさんのおうちへくれば、とってもたのしいのに。)

と、思いました。

それから、大きな声で、

「おはようございます。」

と、よんでみましたが、なんのへんじもありません。

そこで、寝床のところへいって、カーテンをあけてみました。すると、そこにはおばあさんが横になっていましたが、ずきんをすっぽりと顔までかぶっていて、いつもとちがった、へんなかっこうをしています。

「ああら、おばあさん、おばあさんのお耳は大きいのねえ。」

「おまえのいうことが、よくきこえるようにさ。」

「ああら、おばあさん、おばあさんのお目めは大きいのねえ。」

「おまえがよく見えるようにさ。」

「ああら、おばあさん、おばあさんのお手ては大きいのねえ。」

「おまえがよくつかめるようにさ。」

「でも、おばあさん、おばあさんのお口はこわいほど大きいのねえ。」

「おまえがよく食べられるようにさ。」

オオカミはこういいおわるかおわらないうちに、いきなり寝床からとびだして、かわいそうな赤ずきんちゃんを、ぱっくりとひとのみにしてしまいました。

オオカミは、おなかがいっぱいになりますと、また寝床にもぐりこんで、ねむってしまいました。そうして、ものすごいいびきをかきだしました。ちょうどそのとき、狩人が家のまえをとおりかかりました。そして、

(ばあさんが、おっそろしいいびきをかいてるが、どうしたのかな。見てやらにゃなるまい。)

と、思いました。

そこで、狩人は、へやのなかへはいりました。そして、寝床のまえまでいってみますと、そこにはオオカミがねているではありませんか。

「この野郎、とうとう見つけたぞ。よくも長いあいださわがせやがったな。」

と、狩人はいいました。

そして、すぐさま鉄砲をむけようとしましたが、そのときふと狩人は、オオカミがばあさんをのんでいるかもしれない、そして、もしかしたら、ばあさんの命はまだたすかるかもしれないぞ、と、思いつきました。それで鉄砲をうつのはやめにして、そのかわり、はさみをだして、ねむっているオオカミのおなかを、ジョキジョキ切りはじめました。

ふたはさみばかり切りますと、赤いかわいいずきんが、ちらと見えてきました。もうふたはさみばかり切りますと、女の子がピョンととびだしてきました。そして、

「ああ、びっくりしたわ。オオカミのおなかのなかって、まっくらねえ。」

と、大きな声でいいました。

それから、おばあさんもまだ生きていて、オオカミのおなかのなかからでてきました。でも、おばあさんはよわりきって、やっと息をしていました。

赤ずきんちゃんは、すばやく大きな石をたくさんもってきて、それをオオカミのおなかのなかにつめこみました。

やがて、オオカミは目をさまして、とびだそうとしましたが、石があんまりおもたいので、たちまちその場にへたばって、死んでしまいました。

これを見て、三人は大よろこびです。狩人は、オオカミの毛皮をはいで、それをうちへもってかえりました。

おばあさんは、赤ずきんちゃんのもってきてくれたおかしを食べ、ブドウ酒をのみました。それで、またすっかり元気になりました。

でも、赤ずきんちゃんは、

(これからもう二度と、ひとりっきりで、森のなかの横道にはいっていくようなことはよそうっと。おかあさんがいけないとおっしゃったんですもの。)

と、考えました。

●図書カード

Chapter 1 of 1