三
お花畑というのは、各種の高山植物の花が紅白黄紫入り乱れて咲いていることも絶無とはいえないが、概して一群の中で、或種の花が多数を占めて、其群を支配している場合が多い。例えば見渡す限り白い花の白山一華に交って、紅い小岩鏡や、紫の虫取菫などが点在しているといった工合である。しかし少しも外のものが混らないで、純群落を作っていることも亦少なくない。紅い駒草や白山小桜、濃い紫の千島桔梗、白い岩梅などがそれである。いつか盛岡市の西北にある岩手山に登った時、頂上の旧火口の内部に駒草の大群落が咲き続いているのを見て、全く驚いたことを覚えている。朝日岳の頂上附近にある白馬アサツキの群落も、他には見られぬ特色という可きであろう。可憐な白山小桜は北アルプスや奥上州方面の山に多い、稍多量に水気を含んだ湿地であれば、必ず白山小桜と毛氈苔の群落が見られる。緑の偃松を綴って高根薔薇の紅い花が、万緑叢中の紅一点どころか千点といいたい程に咲いているのは、むしろ稀にしか見られない眺めである。北アルプスの雪倉岳がそうであった。五月雪消の跡に葉に先立って大きな白い苞を持った水芭蕉の花が、地から湧き出したもののように原を埋めて一斉に咲いた時の尾瀬は、目を驚かすに足るものがある。南アルプスでは白い花の白馬黄耆や紫の深山小田巻草が多い。それが断崖の縁をくけたように咲き続いて、吹き上る谷風に揺れている風情も捨て難い趣がある。然し何といっても私はまだ立山の南に在る五色ヶ原ほど、変化に富んだお花畑を見たことはない。其処は八千尺を超えた高原で、偃松があり、草原があり、石原があり、残雪もあり、池もあり、渓流もあるというように、有らゆる条件を具えているので、湿地を好む植物と乾燥地に生ずる植物とが、一団又一団と群落を成して、其名の如く目が醒めるような一の大きなお花畑を作っている。天上の楽園とはげに斯様な処をいうのであろうとつくづく感心したのであった。其他の多くの山にも、それぞれ特長あるお花畑の存在することは言う迄もないが、一々紹介する余裕のないのを遺憾に思う。