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現代語訳 平家物語 02 第二巻
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現代語訳 平家物語 02 第二巻
作者不詳
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원문 Public Domain
Chapter 5 of 15

教訓

陰謀荷担者のほとんどすべてを捕え、これを幽閉した清盛は、まだそれでも気の済まないことが一つあった。いうまでもない、陰謀の本当の元凶というべき法皇を、目と鼻の先に野放しにしていることだった。とにかく相手は法皇であって、西光や成親とはわけが違う、うかつに手の出せないことが、余計、彼を焦々させていたのである。

やがて清盛は、赤地錦の直垂に、黒糸縅の腹巻、白金物打った胸板を着け、愛用の小長刀をかいばさんだ物々しい装立ちで、側近の貞能を呼びつけた。

清盛の前に伺候した貞能も、木蘭地の直垂、緋縅の鎧を着用している。今にも戦の始りそうな、そんな二人の装立ちである。

「のう、貞能、つくづく思うに、過ぐる保元、平治の乱には、この清盛が、一命を投げうって朝廷のお味方をいたし、逆徒を平げてまいったことは、そちもよく存じておろう。そのために、何度か命を失わんとしたこともあった。たとえ、誰が何といおうと、この忠臣一門を七代まではお見捨てなさるまいと思っていたわしが、うかつであったろうか? それも、成親、西光の如き賤しい奴らのいうなりになって、我が一門を滅ぼそうとなされる法皇のお気持は、何としても心外じゃ。この後にも、何日、何時そういったふらちな奴らの言葉に耳をお傾けになって、院宣をお下しになるか、わかったものではない。もしそうなって、当方が朝敵と呼ばれたあとでは、いかに悔やんでもこっちの負けだ。今暫く、世が静まり、不穏の気配のなくなるまで、法皇に鳥羽殿に移って頂くか、またはこの六波羅へお移り願うのがよいと思うのじゃよ。それに就ては、おそらく北面の武士の間に異議も起り、矢も放つ者も出てこようと思う。侍共にも、一応、軍の用意をさせておけ。とにかく、わしは、あの気の変り易い法皇様へのご奉公だけはこりごりいたした。さア、馬にくらおけ、鎧を出せ」

いつに変らぬ気の短い清盛の命令で、邸内はてんやわんやの大騒ぎである。この混乱の真最中を、主馬判官盛国は、いち早く重盛の邸へ報告にかけつけた。

「一大事でございます。清盛様のお気が変り大変な事になりました」

重盛はとっさに、成親のことと思い違えて、

「では、とうとう、成親卿は首をはねられたのか?」

「いえ、いえ、そのことではございません。清盛公は鎧を召され、侍どももすべて物具の用意をいたし、唯今より、法住寺殿へ押しかけるご決意のようでございます。何でも、法皇様をしばらく鳥羽の北殿へお移し申すか、それとも六波羅へ来ていて頂こうというおつもりとのことでしたが、内心は、九州の方へでもお流し申そうというご計画に思われます」

「そんな恐しいことを、いかに父上でも」

と、一たん否定した重盛も、今朝方の清盛の興奮の様子では、そういうこともあるのかも知れないと思って、車をとばして西八条にかけつけてきた。

西八条の邸内には、既に一門の重だった者たち数十人が、思い思いの鎧をつけて、ずらりと立ち並び、諸国の受領、衛府などは、縁先からあふれて庭を埋めている。それぞれ、旗さしものを側近く引き寄せ、兜の緒をしめて、馬の腹帯をかたくして、出陣の命令を今かいまかと待ちわびているのであった。

重盛は、烏帽子に直衣という平服姿で、さらさらと衣ずれの音をさせながら、終始、落着き払って、清盛の座所にやってきた。重盛の到着を聞いた時から、「あいつのことだから、又じゃらじゃらした平服姿で、わざとやってくるぞ、少しは意見してやらねば」

と思っていた清盛だったが、わが子とはいえ、一目おいている上に、その礼儀正しさと、慈悲深さは定評のある男であり、会ったとたんに清盛は、自分の格好が恥ずかしくなってきた。急いで障子を立てると、彼は、慌てて腹巻の上から法衣をひっかけたが、胸板の金物が、ともすると着物の合せ目から見えるのを、無理にひっぱって、しきりに衿をかき合せていた。

重盛は、弟宗盛の上座に着くと、黙って父の顔を見た。しばらく沈黙が続いていたが、清盛の方から先に口を切った。

「いろいろ調べてみると、成親の謀叛は、ほんの出来心で、実は、すべてを計画し、宰領したのは法皇らしい。そこで、とにかく世の中が一応治まるまで、鳥羽の北殿か、またはこの六波羅に移って頂いていた方がよかろうと思うのじゃが、どうであろうかな?」

清盛は、重盛の顔色を伺いうかがいそれだけ言った。すると重盛の顔から血の気が引いたと思うと、彼ははらはらと、涙をこぼした。

「如何いたしたのじゃ、何か気にでも障ったのか?」

「父上、唯今のお言葉を承っておりますと、平家一門の運命もここに極まれりという感じです、とかく人間は、運のつかない時に悪いことを思い立つものです。それに父上のそのご様子は、どう見ても正気の沙汰とは思えないのです、天孫降臨以来この方、太政大臣ともあろう人が甲冑をつけたということは、今まで聞いたことがありませんし、どう考えても礼儀に背くことと思われます。更に父上、父上は出家の身ではなかったのですか、出家の身で甲冑をまとうのは、これ又破戒無慚の罪、その上に仁義礼智信の法にもそむくことになりましょう。子として父上に意見するのは、おこがましいことですが、心に残したことは、後々までしこりになって残ると申します。思い切って申し上げましょう、世に四恩ありと申します、天地の恩、国王の恩、父母の恩、衆生の恩、その内で最も重いのが国王の恩だと言われます。まして、我が一門は、先祖にも例のない太政大臣の高位にのぼり、無能無才の私でさえ内大臣の位を頂いております、それだけではございません、国土の半分は一門の所領となり、荘園の権利はすべて一門の手中にあります、これが朝廷のおかげでなくて何でしょうか。この莫大な恩義を忘れて、法皇に礼を失することは、天照大神、正八幡宮の神慮にもそむくことです、それに大体、法皇のお考えになりましたことも一理ないことではございません、とかくこの一門はその武功に目がくらんで、傍若無人の振舞をすることも何度かありました。とにかくこのたびは、ご運に恵まれて、陰謀露顕、その上、成親卿始め一味の面々も捕えられた上は、法皇がどのようなご計画をお持ちであろうと、恐れることはございません。適当の処分を行なった上は、益々ご忠勤を励まれるがよろしゅうございます。そのうちには法皇も当方の誠心にお気づきになるに決っております。君主である法皇と、臣下である父上とを並べて考えれば、当然、法皇にお味方せねばならぬのが私の立場、法住寺殿を守護し法皇をお守りするのが、並々ならぬ君恩へのせめてものご奉公と思います。幸い常日頃、私のために一身を捨てようという部下もあり、彼らをひきいて法住寺殿にはせ参ずることになりますれば、何といっても容易ならざる大事になりましょう。君に忠を捧げんと思えば、山よりも高き父の恩を裏切ることになり、不孝の罪を逃れんと思えば、不忠の罪を冒すことになり、私の進退もここに極まった感があります。唯、こうなった上は、むしろ、いさぎよく重盛の頸をおはね下さい。法皇の御身を守ることも許されず、まして攻めるなどとは思いもよらないこの私です、生きていては唯、板挟みの責苦にあうばかりです。それにしても、我が一門は、あまりに短時日の内に、この世の栄華富貴を極め過ぎたようです、この家には、高禄、高位が重なり合っております、一年に二度実のなる木は、その根が必ず傷むという言い伝えがあります。平家の御運も、そろそろ末になったのではないかと案じている次第でございます。かような末世に生れ合せた私の運命を、悲しく思います」

情理をつくし、誠心誠意かきくどく重盛の心の内を推し量って、座にあるすべての人々は、みんな涙に暮れてしまった。

こうなっては、いつもの通りの横車も押すことのできない清盛である。諸将の手前もあるし、一門の人望の中心である重盛を相手では、どうにもできない。この機会こそ、院政打破の絶好の時と思っていただけに、清盛は内心がっかりしてしまった。

「まア、まア、重盛、落着きなさい。おれだって、君恩の並々ならぬ事ぐらいは知っている。しかし、後白河法皇はこれまでにも、何度かそういう噂の渦中に立った方でもあり、また、いつ、どこかの悪党どもにそそのかされて、つまらぬことでもお考えなされぬでもないと思ったまでのことじゃよ」

「これは、ほんのたとえでございます。いかなる事態が出来いたしましても、法皇を何とかなされるなどとは、以てのほかのお考えと思います、それは父上、余りに思いあがった、ご思案としか思えませぬ」

重盛は、それだけはっきり清盛にいうと、ついと立って、中門のあたりにたむろしている侍達を呼び寄せた。

「唯今、重盛が、入道殿にご意見申し上げたことを、お前達も聞いたであろうか、今朝も実はこういう事態が起ろうかと内々心配いたし、ずっと留まっていようかとも思ったが、余り騒がしいので、一先ず帰ったのじゃ。さて皆の者、清盛公について、御所攻めのお供に加わるのは、お前らの勝手じゃが、この重盛の頸がはねられたのを、しかと見届けた上で出陣いたせ、わかったな、では帰るといたそう」

来る時と同じ静かな行列は、西八条の邸を出ていった。

Chapter 5 of 15
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