Chapter 1 of 1

Chapter 1

昔、ある村に重吉と六兵衛という二人の少年が住んでいました。二人は子供の時分から大の仲よしで、今まで一度だって喧嘩をしたこともなく口論したことさえありませんでした。しかし奇妙なことには、重吉は目から鼻へ抜けるほどの利口者でしたが、六兵衛は反対に何をやらせても、のろまで馬鹿でした。また重吉の家は村一番の大金持ちでしたが、六兵衛の家は村一番の貧乏でした。それでいて二人が兄弟のように仲がいいのですから、村の人々が不思議に思ったのも無理はありません。六兵衛は、その生まれつきの馬鹿のために、仲間からしょっちゅうからかわれて、とんまの六兵衛というあだ名をつけられていました。

「とんまの六兵衛さん、川へ鰹節をつりに行かねえか。」

「お前とお父さんは、どっちがさきに生まれたんだい。」

こんなことを言われても、六兵衛は怒りもせず、にやにや笑っているばかりでした。それを見ている重吉はつくづく六兵衛がかわいそうになりました。そしてどうしたら六兵衛を利口にして、金持ちにすることが出来るかと、そればかりを考えていました。それで、

「六さんは金持ちになりたくないかい?」と尋ねると、六さんは、

「うん、なりてえよ。」と答えます。

「利口になりたくないかい?」と尋ねると、

「うん、なりてえよ。」と言って、いつものようににやにや笑っています。

ある日のこと、重吉はなにを思ったか、お父さんが大切にしまって置いた掛け物を、そっと取り出して、台所の片隅にかくしてしまいました。するとお正月が来て、お父さんがその掛け物を床の間へかけようとすると、いつもしまってある場所に見当たりません。お父さんはびっくりして、家中を探し回りましたが、どうしても見つかりません。お父さんは弱ってしまいました。これを見すまして重吉はお父さんの前に行って、

「お父さん、私の友達の六さんはうらないがうまいよ。だから掛け物のある場所をうらなわせてみてごらんよ。」と言いました。

すると、お父さんは笑いながら、

「なに、とんまの六兵衛がうらなうって? これほどさがしても見つからぬものを、あんな馬鹿にどうしてわかるものかえ。」と言って、まるで取り合ってくれません。

「お父さん違うよ。お父さんはまだ六兵衛さんのえらいことを知らないんだ。六兵衛さんはうらないにかけては日本一なんだよ。」

あまり重吉がまじめに言い張るので、お父さんもついその気になって、

「じゃ一つうらなわせてみようか。」と言いましたので、とんまの六兵衛は、いよいよお父さんの掛け物のありかをうらなうことになりました。

「あのとんまの六兵衛のうらないが当たったら、あしたからおてんとう様が西から出らあ。」と、村の人々は笑いました。

使いのものにつれられて六兵衛は、重吉の家にやって来ました。そして座敷のまん中に落ちつきはらって座り、勿体ぶって考えていましたが、やがてぽんとひざを叩いて、とんまに似合わないおごそかな声で言いました。

「皆さん、掛け物のありかはわかりました。こちらです。」と言って台所の方をゆびさしました。そこで重吉のお父さんは、その台所のあたりを探しますと、果たして掛け物が出て来ました。六兵衛は、もとより重吉から掛け物のありかを教えられていたのですから、こんなことはわけもないことだったのです。でも重吉のお父さん始め家の人々は、そんなことは知りませんから、六兵衛のうらないにびっくりしてしまいました。そして、

「六兵衛は、すばらしいうらないの名人だ。」ということがやがて家から村へ、村から城下へとひろがって、六兵衛は重吉のちょっとしたいたずら半分のはかりごとのために、うらないの大先生になってしまったのです。

ちょうどその頃、その国の殿様のお屋敷につたわっている家宝の名刀が、だれかのために盗まれました。これはまったくの一大事ですから、殿様は国中に命令を下して、盗人を探させましたが、どうしても見つけることが出来ませんでした。

その頃またちょうど、六兵衛先生の名が殿様のお耳に達しました。そこで殿様は早速、六兵衛先生をむかえて、名刀のありかをうらなわせることになりました。

さすがの六兵衛もこれには驚きました。あんまり重吉のいたずらがすぎたために、とんだことになったと、内心びくびくしていますと、やがて殿様から使いがやって来て、六兵衛ははるばると殿様のお城につれられて来ました。六兵衛は心配でたまりませんでした。どうしてうらなったらいいのかまるで見当もつきません。

さて、いよいよ明日は登城して、殿様の御前でうらないをするという晩です。六兵衛はまんじりともせず考えこんでいましたが、なんにもいい考えは浮かんで来ません。そのうちに頭がぼんやりして来たので、六兵衛は頭をひやすつもりで庭の方に出て行きました。と、その時、一匹の虫が六兵衛の大きな鼻の穴へとびこんだのです。そこで六兵衛は、持ちまえの大声をはり上げて、

「ハックショ、ハックショ。」とくさめをしました。ところがだしぬけに、縁の下で何か言うものがありました。六兵衛は、

「だれだっ。」と言おうとしましたが、鼻の中がくすぐったいので、また大きなくさめをしました。と、こんどは、縁の下からおろおろ声で、

「ハイ、白状いたします。実は私が殿様の名刀を盗んだものでございます。名高いうらないの先生がうらなうということをきいて、どんなものかと思って、今までここにしのんでいたのでございます。ところが、あなた様は私がここにしのんでいることまでうらない当てて、ただいま『白状、白状』と申されました。名刀は、お城の裏のいちばん大きな松の根元にうずめてありますから、どうぞ命だけはお助け下さいまし。」

六兵衛はこりゃすてきなことをきいたと思い、大喜びで盗人はそのまま逃がしてやりました。

次の日六兵衛は、生まれてから一度も手を通したことのない礼服をきせられ、お城に参上しました。百畳敷もある大広間には、たくさんの家来がきら星のようにずらりと居流れています。六兵衛はとんまですからあまり驚きませんでしたが、それでもおどおどしながら殿様の御前に平伏しました。

「六兵衛とはその方か。御苦労、御苦労。」と殿様は声をかけました。

「さて、余の家に伝わる名刀のありかについて、そのうらないをその方に申しつける。正しく名刀のありかを判じ当てるならば、ぞんぶんの褒美を取らすぞ。」

六兵衛はこれをきくと、頭をあげてピョッコリとあいさつをして、

「はい、はい、ありがとうございます。」と答え、それから勿体ぶって考えこみました。ずらりとならんでいる家来たちは、せきばらい一つせず、六兵衛の振舞を見ています。すると、やがて六兵衛はひざをぽんと叩いて、

「殿様、わかりました。お家の名刀はたしかに、お城のうらのいちばん大きな松の根元にうずめてございます。」と申し上げました。

そこで、家来たちがさっそくその松の根元を掘って見ますと、果たして宝物の名刀が出て来ました。

ところが殿様は、大喜びと思いのほか、ことのほかの御立腹でありました。

「さてはその方、あらかじめ自分で盗み、松の根元にかくし置いたものにちがいあるまい。不届きもの奴!」

こう言うや、殿様はそばの刀を取って引き抜こうとしました。とんまの六兵衛も、これには驚き、がたがたふるえ出しました。

すると、かたわらに座っていた家来の一人が、

「恐れながら申し上げます。当人はあだ名をとんまの六兵衛とか申し、生まれつきの馬鹿者のゆえ、かかるものを切っては殿の刀のけがれ、いかがなものでしょうか、もう一度外のことをうらなわせて、それで当たらずば殿の前にて拙者が真っ二つにいたしましては。」

殿様も、これにも一理があると思いましたのか、さっそく六兵衛を次のうらないに取りかからせました。

殿様はこんどは、手のひらに何やら字を書きました。そしてその手のひらをかたくにぎって、言いました。

「こりゃ六兵衛、汝が盗人でない証拠を見せるために、余の手のひらに書いた文字を当ててみよ。うまく判じ当てたならば、のぞみ通りの褒美をとらせよう。判じそこねた時は、汝の首は汝の胴にはつけて置かぬぞ。」

さあこんどこそ、六兵衛も死にものぐるいです。どうかして考え出そうとしましたが、もとよりのろまでとんまなのですから、とうてい考え出せません。のろまのとんまでなくとも、これを判じ当てることはちょっと出来ないことでしょう。六兵衛は急に悲しくなりました。このまま自分は殿様に殺されるのかと思うと、涙が出て来ました。

「コラ! 早く判じ当てんか。」と殿様は催促しました。

いよいよ絶体絶命です。これももとはといえば重吉のいたずらから出たことです。思えば重吉がうらめしくなりました。で、とうとう六兵衛はおろおろ声で、

「重吉さんがうらめしい。」と言おうとしましたが、涙が、こみ上げて来て、

「重……重……」とどもってしまいました。

「なに、十だと。六兵衛、でかしたでかした。」

殿様はさっと手をひろげて、そう叫びました。

どうでしょう。殿様の手のひらには、たしかに十という字が書いてあったのです。六兵衛はびっくりするやら、ホッとするやら、夢のような気がしてぼんやりしてしまいました。が、やがてたくさんの御褒美をいただいて、喜び勇んで村へ帰って来ました。

それからはだれも、六兵衛をとんまの六兵衛と呼ぶものはありませんでした。

●図書カード

Chapter 1 of 1