Chapter 8 of 39
七月一日
私がついこの間から始めた此の日記のやうなものは、中味を嚥んだあとの薬包紙をまるめずにとつて置いて百合さんの万年筆で書いてゐるのだ。はじめの二三度は、百合さんがヴェランダで編物をしたり、お台所で食事の支度をしたりしてゐるひまに書いて、ベッドの間に挟んで置いた。百合さんはぢきにそれを見附けた。私は禁められはしまいかとびくびくしてゐたがそれは反対だつた。それどころか百合さんは紙を綴るために小さな虫さしピンをさへ呉れた。その代り一日に三枚だけといふ約束で。けれど三枚は書けない。こんな小さな紙だけれど、そんなに書けばきつと私は疲れるだらう。随分字を忘れてまだるつこい。不思議なことに私の指先はあまり顫へない。