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二、三年来『玉藻』誌上に載せた短い俳話を集めて本書が出来た。されば「玉藻俳話」とでも題する方が適切かも知れぬ。いずれにせよ、私の信ずる俳句というものは斯様なものであるという事を書き残して置くものである。

往年岩波茂雄君から、従来発行し来った岩波文庫の他に今度岩波新書を発行しようと思う、それについて私に「俳句への道」という一篇を執筆してもらいたい、という話があった。私は、出来たらば書いて見よう、と約束した。その後十年、二十年と月日が経って、茂雄君は亡くなってしまった。が、最近また改まって岩波新書として「俳句への道」を書いてもらいたいという話があった。昔茂雄君の依嘱に応え得なかったことを心残りに思っておったところである。その頃『玉藻』に載せはじめた俳話類を纏めたものでよろしければと言った。それでも宜しいとの事であった。それから一、二年を経過して、漸く書物になるだけの分量になった。それに「俳句への道」という題を附することにした。

この書に輯めたものは私が従来しばしば陳べ来ったものをまた言を改めて繰り返したものに過ぎぬ。私の俳句に対する所信に変りはない。しかし時に応じ物に即して筆を採ったものであるから、今の俳句界に対して無用の言とはいえないであろう。

昭和二十九年十月二日鎌倉草庵にて高浜虚子

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