Chapter 1 of 1

Chapter 1

人形物語

竹久夢二

あるちいさな女の児と、大きな人形とが、ある日お花さんのおうちをたずねました。

ところが その女の児は、それはもうほんとに、ちいさな女の児で、その人形はまた、それはそれはすばらしい大きな人形だったのです。

それゆえ、お取次に出た女中には、人形だけしか眼に入らなかったのです。女中はおどろいてお花さんに、

「まあお嬢さま! 大きなお人形さんがお嬢さまに逢いにいらっしゃいましたよ」と言いました。

「玉ちゃん」茶の間で、お母様の声がする。

「はあ」と愛想よく玉ちゃんは答えました。

「後生ですから、そこから鋏をもってきて頂戴な、ね」こんどはだまっていましたが、いそいでそこにあった人形を抱きあげて、

「あたし、いま、人形におっぱいあげていますの……」と言いました。暫くすると可愛い子守唄がきこえて来ました。

ねんねしなされまだ日はたかい。

暮れりゃお寺の鐘がなある。

お冬さんの人形は病気でした。

ちいさなお医者様は、大きな時計を出して、人形の脈をとりながら「ははあ」と小首をかたげました。

お冬さんは、心もとなさに、

「先生、いかがでございましょう」

とたずねました。先生は手を拭きながら、

「なあに、ちょっとした風邪ですから御心配には及びません。お子様方は夜おやすみの時、おなかを出さないように気をつけて下さい」

と言いました。

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