Chapter 1 of 18

燕の歌

春来にけらし春よ春

まだ白雪の積れども

――草枕

灰色に ひとりぼつちに 僕の夢にかかつてゐる

とほい村よ

あの頃 ぎぼうしゆとすげが暮れやすい花を咲き

山羊が啼いて 一日一日 過ぎてゐた

やさしい朝でいつぱいであつた――

お聞き 春の空の山なみに

お前の知らない雲が焼けてゐる 明るく そして消えながら

とほい村よ

僕はちつともかはらずに待つてゐる

あの頃も 今日も あの向うに

かうして僕とおなじやうに人はきつと待つてゐると

やがてお前の知らない夏の日がまた帰つて

僕は訪ねて行くだらう お前の夢へ 僕の軒へ

あのさびしい海を望みと夢は青くはてなかつたと

Chapter 1 of 18