Chapter 1 of 11

ポポー(大喪の服をきて、一葉の肖像写真から眼をはなさない)とルカー

ルカー 困りますなあ、奥さま。……それじゃ御自分の身を、じりじり滅ぼしておいでになるだけですよ。小間使も、おさんどんも、イチゴを採りに行きましたし、およそ息のあるものは、結構みんな楽しんでおりますよ。現にあの小猫でさえ、慰みごとはちゃんと心得ていて、庭をほつきまわっては、小鳥をとらまえていますのに、あなた様は日がな一んち、まるで尼寺にはいったみたいに、お部屋にこもりきりで、どだい気散じというものを、なさらない。全く、ほんとでございますよ! なにせ、もうこの一年というもの、うちから一あしも、おでましにならないなんて!……ポポー ああ、二度とふたたび、外へなんか出ないよ。……出てどうするのさ? わたしの一生は、もう終ったんだよ。あの人はお墓のなかに臥ている。わたしは、この四つの壁のなかに、自分を埋めている。……ふたりとも、死んでしまったのさ。ルカー ほれ、またそれだ! ほんとに、もう聞きたくもない。ニコライ・ミハイロヴィチが亡くなったのは、そうなる因縁ごとで、つまり神さまの思召しでございますよ。――天国に安らわせたまえ。……あなた様も、これまでお歎きになりゃ、もう沢山で、世間体というものも、少しはお考えにならなけりゃあ。一生がい泣きとおしたり、喪服を着どおしたりで、暮らせるものじゃござんせん。……わたしも昔、ばあさんに死なれましたっけが……なあに、もう! ひと月ほどは、歎きも泣きもしましたけれど、それでまあ沢山でして、一生がい泣いて暮らすほど、有難いばあ様でもありませんでしたよ。(ため息をつく)ほんとに、近所のつきあいも、すっかり忘れてしまいなすった。……こっちからもお出かけがないし、向う様を呼ぼうともなさらない。こう申しちゃ失礼ですが、わしらの暮らしは、とんと蜘蛛みたようで、――日の目もろくろく拝めませんですよ。一張羅のお仕著せだって、鼠公に食われる始末で。……それで、立派なお人がいなさらんのならまだしも、この郡内と来たら、殿がたがキラ星のようにお揃いじゃござんせんか。……ルィブロヴォにゃ、聯隊が駐屯しとりまして、その士官さんたちといや――色とりどりのボンボンみたようで、見ても見飽きることじゃねえ! その営舎じゃ、金曜といや、かならず舞踏会があるし、それに、なにせ毎にち、軍楽隊がぶかぶかやっておりますよ。……やれまあ、奥さま! そのお若さで、そのご器量で、血にミルクをまぜたみたいな血色で、――いっそ面白おかしく、お暮らしになったらどうですかね。……きれい盛りは、いつまで続くもんでもござんせん! これで十年もしたら、いくら孔雀みたいにめかしたてて、士官さんたちの目をくらまそうとなすったところで、はや手おくれでござんすよ。ポポー (きっぱりと)いいから、もう二度とわたしに、そんな話はしないでおくれ! お前だって知ってるじゃないか――ニコライ・ミハイロヴィチが亡くなって以来、この世はわたしにとって、一文の値うちもなくなったんだよ。お前には、わたしが生きてるように見えるだろうけど、ただそう見えるだけなのさ! わたしはお墓にはいるその日まで、この喪服を脱がない、世間へも出ないって、心に誓ったんだよ。……いいかい? わたしがどんなにあの人を愛しているか、あの人の幽霊に見せてやりたい。……そりゃ、わたしも知ってるし、お前に今さら匿したって始まらないことだけれど、あの人はちょいちょい、わたしを邪慳に扱ったり、むごい仕打ちをしたり、おまけに……その、不実なまねまでしたわ。でもね、わたしはお墓にはいるまで操を立てとおして、わたしがちゃんと愛のまことを心得ている女だという証拠を、あの人に見せてやるのさ。やがてあの世で再会したら、わたしがあの人の死ぬ前と、ちっとも変らないでいることを、あの人は思い知るだろうよ。……ルカー まあ、そんなことを仰しゃるひまに、ひとつお庭を散歩でもなさるか、いっそトビーかヴェリカン〔(ともに馬の名)〕を馬車につなげと言いつけて、ご近所へ訪問におでかけになっては……ポポー ああ! (泣く)ルカー 奥さま!……奥さまったら!……どうなさいました? びっくらするじゃございませんか!ポポー あの人は、トビーをあんなに可愛がっていた! いつもあの馬に乗って、コルチャーギンやヴラーソフのところへ、出かけてらしたものだっけ。馬がお上手だったわねえ! こう力いっぱい手綱を引きしめてらっしゃる時の姿の、優美なことといったら! おまえ、覚えてるかい? トビー、ああトビー! 今日はあれに、カラス麦を五百匁、おまけにやるように言っとくれ。ルカー かしこまりました!

けたたましい呼鈴の音。

ポポー (身ぶるいして)だれだろう? わたしはどなたにもお目にかかりませんて、そう言うんだよ!ルカー へ、かしこまりました! (退場)

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