●飮み物
服飾の事は前回にて記し終りたれば是より飮食の事を記すべし先づ飮み物には如何なる種類有りしかと云ふに、人生欠く可からざる水は勿論、此他に酒とか汁とか云ふ如き或る嗜好飮料も有りしが如し。此考への據は後に至つて明かならん。
未開社會に於ては井戸を掘る術、水道を設くる術も無き譯故、コロボツクルの如きも、水の入用を感じたる時には必ず川邊に至りしならん。遺跡より發見する所の土器の中には椀形のもの少からず。是等は實に水を汲み水を飮むに適したるものなり。又水を貯へ置くに用ゐしならんと思はるる瓶鉢の類も發見品中に存在す。今日迄に知れたる土器の中にて最も大なる物も直徑一尺五寸に達せず。現に我々の使用する水瓶に比しては其容量誠に小なりと云ふべし。思ふにコロボツクルは屋内に數個の瓶鉢類を並列して是等に水を貯へ置きしならん。
遺跡發見物中には灰も有り燒けたる木片も有りてコロボツクルが火の用を知り居りし事は明なるが、鉢形鍋形の土器の中には其外面の燻ぶりたる物も有れば、湯を沸かし、食物を煮或るは羹を作る事の有りしをも推知せらる。灰及び燒け木は竪穴の隅より出づる事有り、又貝塚の中より出づる事有り。飮食物の煮焚きは屋内にても爲し又屋外にても爲せしが如し。
余は既に土器の中に湯水を飮むに適したる椀形のもの有る事を述べしが、別に急須形のもの有り。其製作形状等に付ては土器の事を言ふ折りに細説すべけれど、大概を述ぶれば其全体は大なる算盤玉の如くにして横に卷煙草のパイプを短くせし如き形の注ぎ出し口付きたり。此噐の用は未だ詳ならざれど之を手に取りて持ち加減より考ふるに、兩方の掌を平らに並べ其上に此噐を受け、掌を凹くして噐の底に當て、左右の拇指を噐の上部に掛けて噐を押さへ、注ぎ出し口を我か身の方に向け之に唇を觸れて器を傾け飮料を口中に灌ぎ込みしものの如く思はる。
又小形の御神酒徳利に似たる土噐にて最も膨れたる部分に圓き孔を穿ちたるもの有り。是も用法不詳なれど、煙管のラウの如き管をば上より下へ傾け差し込み、全体をば大なる西洋煙管の如くにし、噐中に飮み物を盛りて管より之を吸ひしやに考へらる。
以上の二種の土器は或る飮料をば飮み手の口に移す時に用ゐし品の如くなれど、土瓶或は急須と等しく飮料を貯へ置き且つ他の器に灌ぎ込む時に用ゐし品と思はるる土噐も數種有り。
是等種々の土器の存在に由つて考ふるにコロボツクルの飮み物は湯水のみには非さりしが如し。灌ぎ出すに用ゐたりと見ゆる土噐唇に觸れたりと見ゆる土噐の容量、比較的に小なるは中に盛りたる飮料の直打ち湯水よりは貴きに由りしならん。余は普通の水、普通の湯をば斯かる器より灌ぎ、斯かる器より飮みしとは信ずる事能はざるなり。
湯水の他の飮料とは如何なるものなりしや。鳥獸魚介の汁も其一ならん。草根木實より採りたる澱粉をたるものも其一ならん。或は酒に似たる嗜好品有りしやも知る可からず。