Chapter 1 of 1

Chapter 1

売られていった靴

新美南吉

靴屋のこぞう、兵助が、はじめていっそくの靴をつくりました。

するとひとりの旅人がやってきて、その靴を買いました。

兵助は、じぶんのつくった靴がはじめて売れたので、うれしくてうれしくてたまりません。

「もしもし、この靴ずみとブラシをあげますから、その靴をだいじにして、かあいがってやってください。」

と、兵助はいいました。

旅人は、めずらしいことをいうこぞうだ、とかんしんしていきました。

しばらくすると兵助は、つかつかと旅人のあとを追っかけていきました。

「もしもし、その靴のうらの釘がぬけたら、この釘をそこにうってください。」

といって、釘をポケットから出してやりました。

しばらくすると、また兵助は、おもいだしたように、旅人のあとを追っかけていきました。

「もしもし、その靴、だいじにはいてやってください。」

旅人はとうとうおこりだしてしまいました。

「うるさいこぞうだね、この靴をどんなふうにはこうとわたしのかってだ。」

兵助は、

「ごめんなさい。」

とあやまりました。

そして、旅人のすがたがみえなくなるまで、じっとみおくっていました。

兵助は、あの靴がいつまでもかあいがられてくれればよい、とおもいました。

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