Chapter 5 of 7
(五)
それから、幾日かたつて、おたあちやんとおたあちやんのお母さんとが、おきいちやんの家の前を通りました。二人は吃驚しました。家には戸が締つてゐて、もう幾日も人の住んだやうな気配が見えませんでした。どうしたのかと思つて近所の人達に訊いて見ますと、おきいちやんの家は今から一月も前、湖の向ふの村へ越して行つたと云ふことでした。
なほ、近所の人達の話によりますと、おきいちやんは、春からずつと病つてゐましたが、近頃になつて、どうにか治つたかと思ふと、こんどは伯母さんが病ふやうになりました。
伯父さんは歳を老つてゐるし、もともと貧乏な家ですから、どうすることも出来なくなつて、病みあがりのおきいちやんは、湖の向ふの村の機場へ機織工女に売られることになつたのです。それと同時に伯父さん伯母さん達は、他の村へ越して行つたと云ふことでした。
おたあちやんのお母さんは『何んと云ふ不仕合せな人だらう』と涙ぐみました。おたあちやんの眼にも涙が一杯浮んで来ました。
おたあちやんは、次の日から、湖の岸の水神様のお宮へお願をかけました。
――水神様、どうかおきいちやんを救つてあげて下さい。ほんたうにわたしがわるかつたのです。三又土筆がなかつたら、こんなにわたしは苦しい思ひはしなかつたでせう、ほんたうにわたしがわるかつたのです。水神様、どうぞおきいちやんを救つてあげて下さい――
かうしてゐるうちに、いつとはなしに、向ふの村から、こつちの村へ往き来してゐる船頭達の間にこんな唄が謡はれるやうになりました。
湖の風は
何んと云つて吹いた
明日は 帰ろ
生れた村へ
湖の風は
どこから吹いた
機屋の背戸の
薮から吹いた