Chapter 1 of 153

ふしぎなことがある。

左膳がこの焼け跡へかけつけたとき、いろいろと彼が、火事の模様などをきいた町人風の男があった。

そのほか。

近所の者らしい百姓風や商人体が、焼け跡をとりまいて、ワイワイと言っていたが。

この客人大権現の森を出はずれ、銀のうろこを浮かべたような、さむざむしい三方子川をすこし上流にさかのぼったところ、小高い丘のかげに、一軒の物置小屋がある。

近くの農家が、収穫どきに共同に穀物でも入れておくところらしいが……。

空いっぱいに茜の色が流れて、小寒い烏の声が二つ三つ、ななめに夕やけをつっきって啼きわたるころ。

夕方を待っていたかのように、その藁屋根の小屋に、ポツンと灯がともって、広くもない土間に農具の立てかけてあるのを片づけ、人影がザワザワしている。

「イヤ、これで仕事は成就したも同様じゃ。強いだけで知恵のたらぬ伊賀の暴れン坊、今ごろは、三方子川の水の冷たさをつくづく思い知ったであろうよ、ワッハッハ」

と、その同勢の真ん中、むしろの上にあぐらをかいて、牛のような巨体をゆるがせているのは、思いきや、あの司馬道場の師範代、峰丹波。

「ほんとうにむごたらしいけれど、敵味方とわかれてみれば、これもしかたがないねえ」

大きな丹波の肩にかくれて、見えなかったが、こう言って溜息をついたのは、お蓮様である。

取りまく不知火連中の中から、誰かが、

「ムフフ、御後室様はいまだにあの源三郎のことを……」

お蓮様は、さびしそうな笑顔を、その声の来たうす暗いほうへ向けて、

「何を言うんです。剣で殺されるのなら、伊賀の暴れン坊も本望だろうけれど、お前達の中に誰一人、あの源様に歯のたつ者はないものだから、しょうことなしに、おとし穴の水責め……さぞ源さまはおくやしかろうと、わたしはそれを言っているだけさ」

「そうです」

と丹波は、ニヤニヤ笑いながら一同へ、

「お蓮様は武士道の本義から、伊賀の源三に御同情なさっているだけのことだ。よけいな口をたたくものではない」

と、わざとらしいたしなめ顔。

「そこへ、あの丹下左膳という無法者まで、飛びこんできて、頼まれもしないのに穴へ落ちてくれたのだから、当方にとっては、これこそまさに一石二鳥――」

みなは思い思いに語をつづけて、

「もうこれで、問題のすべては片づいたというものだ。今ごろは二人で、穴の中の水底であがいているであろう」

両手で顔をおおったお蓮さまを、ジロリと見やって、

「サア、これで夜中を待って、上からあのおとし穴をうめてしまうだけのことだ」

「何百年か後の世に、江戸の町がのびて、あの辺も町家つづきになり、地ならしでもすることがあれば、昔の三方子川という流れの下から、二つの白骨がだきあって発見さるるであろう、アハハハ」

いい気で話しあっているこの連中を、よく見ると、みなあの焼け跡の近所をウロウロしていた農夫や、町人どもで、あれはすべて司馬道場の弟子の扮装だったのだ。それとなく火事の跡のようすを偵察していたものとみえる。

「サア、酒がきたぞ」

大声とともに、一升徳利をいくつもかかえこんで、このとき、納屋へかけこんできた者がある。

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