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The Wonders of Science
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ファーブルジャン・アンリ
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원문 Public Domain
Chapter 5 of 79

四 牝牛

次の日にエミルは、眼をさますかさまさないうちから、蟻の牝牛の事を考へはじめました。

『叔父さんに、あの話の続きを今朝してくれるやうに頼まなくつちや。』

エミルはジユウルに云ひました。そして大急ぎで叔父さんを見に行きました。

『アハ!』叔父さんは二人の頼みを聞くと大きな声を出しました。『蟻の牝牛の話がそんなにお前達の気に入つたかい。では、お前達にその話をして聞かすよりもつといゝ事をしよう。お前達にそれを見せてあげよう。まづ、クレエルをお呼び。』

クレエルは大急ぎで来ました。叔父さんはみんなを庭の接骨木の茂つた下に連れて行きました。そしてみんなは次のやうな事を見たのです。

其の茂みは花で真白でした。蜂や、蠅や、甲虫や、蝶が、ねむくなるやうな微かな音をたてゝ彼方此方の花から花へ飛びまはつてゐました。接骨木の幹では、その木の皮の筋の間を沢山の蟻が、上つたり降つたりして這つてゐました。そして上る蟻の方がずつと一生懸命でした。その蟻共は時々道で立ち止つて他の蟻とどう上つて行くかについて相談してゐるやうに見えます。そして又すぐに一層熱心に這ひ上つて行きます。降りて来る蟻達はゆつくりとした様子で小さな足どりで来ます。そして自分から足を佇めて休んだり、上つて来る蟻に忠告をしてやつたりします。誰れでも上つて行く者と降りる者の熱心さのちがふ原因は容易に察する事が出来ます。降りて来る蟻達の胃袋はふくれて、重くて、不格好な程一杯になつてゐます。上つて行く蟻達の胃袋はうすくてぺちやんこにたゝまつて、ひもじさに啼いてゐます。それを間違ひつこはありません。降りる蟻達は、沢山な御馳走をたべて、のろのろと家に帰つて行くのです。上る方の蟻は、からつぽの胃袋を一ぱいにしようとする熱心さで、茂みの中を襲ふて、おなじ御馳走の処に走つて行くのです。

『蟻達は接骨木の上で、胃袋を一杯にする何を見つけたのです?』とジユウルが尋ねました。『其処にゐるのなんか、やつと体と一しよに胃袋を引きずつてゐるぢやありませんか。大食ひだなあ。』

『大食ひ? さうぢやない。』とポオル叔父さんはジユウルの云つた事を直しました。『あの蟻達は、もつとえらい目的でたらふく食ふのだ。此の接骨木の上の方に沢山の牝牛がゐるのだ。降りて来る蟻達は丁度今其の牝牛から乳を搾つて来た処なのだよ。ふくれたお腹をひきづつて行くのは、蟻塚殖民地に共同の食物のミルクを運んでゐるのだ。では、其の牝牛から乳を搾る処を見ようかね。けれども断つておくがね、其の牝牛の群を人間のと同じやうに思つてはいけないよ。其の牧場は一枚の葉つぱで用に足りるのだからね。』

ポオル叔父さんは接骨木の枝の先きを、子供達に見える位まで引き下ろしました。そしてみんなで、よく気をつけて見ました。木のやはらかい処や葉の裏には数へる事も出来ない位にびつしりくつつき合つて、真黒なびろうどのやうな虱がしつかりくつついてゐました。その虱は、毛よりも細い吸盤を皮の中に突込んで、少しも其の位置を変へずに接骨木の樹汁で無事に腹を一杯にしてゐるのです。其のお尻の先に小さくて穴のある二本の毛を持つてゐます。その二つの管からは、よく気をつけて見ると砂糖水のやうな小さな滴りが時々漏れ出してゐるのが見えます。此の黒い虱は木虱と云つて、これが蟻の牝牛なのです。其の二つの管は牝牛の乳房で、その端から滴る液体が乳なのです。牝牛が重なり合ふやうにくつついてゐるその真中やその上までも這ひまはつて飢ゑた蟻達は彼方此方の虱の間を行つたり来たりして、其のうまい滴りの出るのを見守つてゐます。そして、それが見つかればすぐに走つて行てそれを飲んで楽しんでゐます。そして小さい頭をあげておゝ何てうまいんだらう、おおこれは何んてうまいんだらう! と云つてゐるやうに見えます。そして、又、他の一口のミルクをさがしに行くのです。けれども、木虱は乳を吝しみます。何時もその管から流し出しはしないのです。其の時には蟻は、乳搾りが其の牝牛の乳にするやうに、やさしく木虱の背中を幾度も撫でさすつてやります。同時に触角といふ其の細いしなやかな小さな角でそつと胃を叩いたり、乳管を擦つたりします。此の蟻の仕事は大抵うまくゆくのです。此のおとなしいやり方で、どうして成就しない事がありませう! 木虱は負けてしまひます。そして一とたらしの滴を見せます。それはすぐに舐めつくされて仕舞ふのです。けれども、蟻はその小さな腹がまだ一杯にはならないと云ふやうに、他の木虱を撫でに行つてしまひます。

ポオル叔父さんは枝を離しました。枝は跳ね返つてもとの位置に返りました。乳搾りも、牛も、牧場も忽ち接骨木の茂みの頂上に行つてしまひました。

『まあ、不思議ですのねえ、叔父さん。』とクレエルが叫びました。

『不思議だねえ。だが、接骨木ばかりが蟻の牝牛共のゐる藪ではないんだよ。木虱は他のいろんな木にも見つける事が出来るのだ。キヤベツや薔薇の藪にたかつてゐる木虱は緑色をしてゐるし、接骨木や、豆や、けしや、蕁麻や、柳、ポプラのは黒、樫と薊のは青銅色、夾竹桃や胡桃とか榛とかにつくのは黄色だ。みんな二つの管を持つてゐて、其れから甘い汁を滲み出させて、お互ひに蟻の御馳走の為めに競争してゐるのだ。』

クレエルと叔父さんは、家にはいりました。エミルとジユウルとは今見た事に夢中になつて、木虱を他の木でさがしはじめました。そして二人は一時間とたゝないうちに、四種類の木虱を見つけました。そしてどの種類もみんな不公平なく見舞ふ蟻達をもてなしてゐました。

Chapter 5 of 79
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